2021年10月
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エイズ感染者の死亡者大幅減 インドで抗レトロウイルス治療が奏功

インドで9月15日、「インドの国家エイズ管理プログラム(NACP)におけるART治療の影響評価」と題した初の画期的な報告書が発表され、抗レトロウイルス治療(ART)が奏功しエイズウイルス(HIV)感染者の死亡数が大幅に減少したことが示された。

ARTは、多剤併用によるHIV感染症の治療法で、国家エイズ管理機関(NACO)によってインド全土のHIV感染者に無料で提供されている。

この報告書は、インド保健・家族福祉省・保健研究庁長官兼インド医学研究評議会(ICMR)所長のバルラム・バルガヴァ(Balram Bhargava)教授と、NACO副長官兼所長のアロック・サクセナ(Alok Saxena)氏が発表した。国家エイズ対策プログラムの下でインド政府が実施している無料のARTプログラムについて、初の全国レベルのARTインパクト評価(ART-IE)の実施報告書である。NACOが委託したこの研究では、2012年から17年までの期間に、全国396カ所のARTセンター(ARTC)において、NACPのARTプログラムが様々なパラメータに与える影響が評価された。

報告書の主な結果は以下の通り。

  • 1. この研究では、抗レトロウイルス治療の高い効果が実証され、5年間の治療後、ARTを受けている人の死亡可能性が半分になった。
  • 2. ARTを受けている人は、そうでない人に比べて、結核になる確率が低い。
  • 3. 2012年と2016年にARTを開始し、治療を継続している人たちのコホート(集団)でウイルス負荷試験を行ったところ、90%以上の人で血液中のウイルスが十分に抑制されている。
  • 4. ARTの受益者の70%以上が、全体的に「良い」または「非常に良い」生活の質を報告し、82%が生産的な仕事に就いていた。
  • 5. NACPにおけるARTプログラムは、非常に費用対効果が高い。

同報告書は、治療へのアクセスを改善し、予防の取り組みを強化するためのプログラムの方向性を示している。また、特にインドの様々な地域で発生しているHIV感染ポケットにおいて、今後必要となる介入・対応のための研究の指針となることが期待される。

用語表記:

  • 抗レトロウイルス治療(Antiretroviral Therapy:ART)
  • 保健家族福祉省(Ministry of Health & Family Welfare:MoHFW)
  • 保健研究庁(Department of Health Research:DHR)
  • 国家エイズ管理機関(National AIDS Control Organisation:NACO)
  • インド医学研究評議会(Indian Council of Medical Research:ICMR)
  • 国家エイズ管理プログラム(National AIDS Control Programme:NACP)
  • インド医学研究評議会(ICMR) 生物医学研究の立案、調整、推進を行うインドの頂点機関であり、世界で最も古い医学研究機関の一つで、国内の生物医学研究を推進している。ICMRの研究は国民の健康に関する優先順位に沿っており、これらの取り組みは、疾病の総負荷を軽減し、国民の健康と福祉を促進することを目的としている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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