2021年11月
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インドSSB賞にゴヴィンダラジュ教授 アルツハイマー病・肺がん治療で画期的な発見

インド科学技術庁(DST)は、傘下のジャワハラル・ネルー先端科学研究センター(Jawaharlal Nehru Centre for Advanced Scientific Research:JNCASR)に所属するゴヴィンダラジュ(Govindaraju)教授が、アルツハイマー病や肺がんなどの診断や治療に大きな可能性を秘めた画期的な発見をしたことで、2021年シャンティ・スワラップ・バトナガル科学技術賞(Shanti Swarup Bhatnagar Prize(SSB) for Science and Technology)を受賞したことを発表した。10月4日付。

この賞は、インド科学産業研究評議会(CSIR)の創設者である故シャンティ・スワラップ・バトナガル氏にちなんで名付けられ、科学技術への卓越した貢献に対して毎年授与されるもの。

シャンティ・スワラップ・バトナガル科学技術賞を受賞したゴヴィンダラジュ教授(左)。
右は、高性能熱電材料を製造するための革新的な戦略の開発で同時受賞したビスワス助教授
(JNCASRウエブサイトより)

同賞の化学部門で受賞したゴヴィンダラジュ教授は、アルツハイマー病の脳内でアミロイドと呼ばれる有害なタンパク質の凝集種の負担を効果的に減らし、動物モデルで認知機能の低下を回復させる新しい薬剤候補分子(TGR63)を発見した。この分子は、製薬会社が臨床試験に採用しており、ヒトでのアルツハイマー病治療に優れた効果が期待できる。また、小分子、ペプチド、天然物に関するこの革新的な研究は、診断と治療の両方を可能にし、個人に合わせた医療を実現するものである。

バンガロール地方の辺境の村出身のゴヴィンダラジュ教授が神経変性疾患に初めて触れたのは、学生時代に精神疾患の患者に対する無神経な扱いを目の当たりにしたときで、この経験が研究分野の選択に大きな影響を与えた。彼は、CSIR-National Chemical Laboratory(NCL)で博士号を取得し、米国とドイツの主要な研究機関でポスドクを務めた後、物有機学と化学生物学に焦点を当てた研究を行い、神経変性疾患やがんなど、人間の健康に関する未解決の問題を解決し、社会に大きな貢献している。

同教授は、アルツハイマー病を選択的に検出し、他の神経変性疾患と区別する分子ツールに関する先駆的な研究も行っている。また、アルツハイマー病の早期診断のためのNIR(近赤外分析計)、PET(陽電子放出断層撮影)、網膜ベースのプラットフォームを開発するためにVNIR Biotechnologies Pvt. Ltdという会社を設立した。設立4年目のこの会社は、インドの有望なバイオテック企業のひとつとして認められ、国際的なメディアにも取り上げられている。

同教授は、アルツハイマー病とがんの関係の理解に興味を持ち、その結果、早期発見・早期治療が難しいとされる肺がんに対して、低分子化合物を用いた最初の薬剤候補(TGP18)を発見した。この分子は診断ツールとしても機能し、「セラノスティック(theranostic)」(診断治療)候補に分類される世界でも数少ない分子の一つ。また、同教授はこの分野でのトランスレーショナルな取り組みも進めている。

絹(シルク)由来の製剤に関する同教授の研究は、インスリンの制御送達、糖尿病患者の創傷治癒、骨格筋、幹細胞を用いたアルツハイマー病治療のための神経組織工学など、人間の健康に広範囲な影響を与えている。このようなシルクを使ったイノベーションは、養蚕業や農家にも活力を与えるものである。

同教授の機能的なアミロイドに関する画期的な研究は、分子の領域を統合し、ナノスケールの分子構造を機能的なバイオ・マテリアルに変換するという「分子アーキテクトニクス(molecular architectonics)」の概念を生み出した。

同教授は、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、日本の主要大学で客員教授を務めるほか、インド農村部の学校での教育の質の向上に熱心に取り組みやアウトリーチ活動にも従事している。また、カルナタカ州や他の州の学校の子供たちの間で、精神疾患についての意識を高める活動も行っている。

同教授は、「自分の子供時代には、精神疾患を老化と同一視して、患者を放置したり、治療を拒否したりすることが一般的だった。大都市で高等教育を受けていたときにも、同様な扱いを受けている患者さんを目にした。このような状況を目の当たりにして、私は研究者としてのキャリアをスタートさせるにあたり、神経科学の研究を志すようになった」と振り返る。

そのうえで「私は、人間の健康に関連する分野で、誰も踏み入れていない道に踏み出したいと思っていた。アルツハイマー病などの神経疾患には、早期診断や治療のための有効な方法がないという事実が、私にこの分野を選ばせた。私の貢献と研究が、早期診断と治療への道を開くことを願っている」と語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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