インド科学技術庁(DST)は、2021年シャンティ・スワラップ・バトナガル科学技術賞(Shanti Swarup Bhatnagar Prize(SSB) for Science and Technology)の化学部門賞を受賞したカニシカ・ビスワス(Kanishka Biswas)准教授の業績を詳しく紹介した。10月4日付。同賞は、ジャワハルラール・ネルー先端科学研究センター(JNCASR)所属のゴヴィンダラジュ(Govindaraju)教授が同時受賞した。
同時受賞したビスワス准教授
それによると、ビスワス氏は、固体無機化学および熱電エネルギー変換の分野における発見が高く評価された。
同氏の研究は、無機固体の構造と特性の関係の根本的理解をベースに、鉛(Pb)フリーの高性能熱電材料を開発したもので、廃熱を効率的にエネルギーに変換する費用対効果の高い技術である。また、基本的かつ洞察的な化学原理を用いて、結晶性無機固体の原子配列と、それに伴う電子状態の非局在化を制御することで、前例のない熱電性能を達成し、同時に電子輸送の強化と熱伝導率の低下を実現した。その成果は今年の科学誌 Science に掲載された。
また、金属カルコゲナイド(metal chalcogenides)と呼ばれる化合物群において、化学結合の階層化、強誘電体の不安定性、原子の揺らぎを利用して熱電特性を調整するという革新的な戦略は、新しいパラダイムの導入で無機固体化学のフロンティアを切り開いた。
利用される総エネルギーの約65%は、不可逆的に廃熱として放散される。この廃熱から効率的に電気を回収し、電子機器、家電製品、自動車、小型産業機器などに再利用できる無機固体があれば、夢のようである。彼が発見した熱電材料は、廃熱を直接かつ可逆的に電気変換が可能で、将来のエネルギー管理において重要な役割を果たすと考えられる。さらに、熱電エネルギー変換では、COやCO2などの有害なガスを一切排出しない。そのため、この高性能な熱電材料は、火力、鉄鋼、化学、原子力などの発電所や、自動車、宇宙ミッション、インド農村部のチュラ(炉床)などで、廃熱の電気エネルギーに変換に有用となる。
ビスワス氏は、コルカタから50キロほど離れたハブラという小さな町の出身で、早くから科学に親しんできた。ジャダブプール大学で化学の優等学位を取得した後、インド理科大学院(IISc)で修士号と博士号を取得。米シカゴのノースウェスタン大学でのポスドク研究では、熱電材料の分野に重点を置いて研究した。
同氏は、国内外で賞を受賞している。JNCASR以外での研究で合計165本の研究論文を発表しており、Journal of American Chemical SocietyやAngewandte Chemieなど高級化学誌でも、固体無機化学や熱電変換に関する論文をそれぞれ10本以上発表している。総被引用数は13,650、h-indexは50。DSTからスワルナジャヤンティ(Swarnajayanti)フェローシップを受賞。英国王立化学会(FRSC)の招待研究員でもある。米国ACSのACS Applied Energy Materialsのエグゼクティブエディター、ACS、RSC、Elsevierの複数の重要ジャーナルの編集諮問委員も務めている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部