2021年11月
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グラフェンバレートロニクスを室温で使用する方法開発 小型量子コンピューターに道 インド工科大学

バレートロニクスは、個体のエネルギーバンド構造の極小値であるバレーを利用して量子情報をエンコード・処理・保存する新興分野である。インド工科大学ボンベイ校(IITB)とドイツのマックスボルン研究所の研究チームは、バレートロニクスの純グラフェンを従来利用できないと言われていた室温で使用する方法を発見した。研究成果は2021年3月、科学誌Opticaに掲載された。

量子現象で情報をエンコードすることにより、各ビットが「0」または「1」であるという2進法の概念を超越する量子コンピューターが注目を浴びている。量子ビットは「0」と「1」の重ね合わせとして存在するため、中間値を取ることができる。詳細に設計されたアルゴリズムを通じた重ね合わせを利用することにより、理論的には従来のコンピューターの速度の数桁上の性能を持つ可能性がある。しかし現在、量子コンピューターはー196.1度以下という超低温に保つ必要があり実用に不向きである。

グラフェンは六角形のパターンの炭素原子から作られ、多くの有望な特性を持つ。原子的に薄い層のグラフェンは電子バレーを持つが、固有の対称性のためにバレー操作には利用できないと考えられてきた。

研究を率いたIITBのゴパル・ディキシット(Gopal Dixit)准教授は、「グラフェンの三角格子に合わせて2つの光線の偏光を操作することにより、2つの隣接する炭素原子間の対称性を壊し、バレー近くの領域の電子バンド構造が谷分極を引き起こし、利用できることがわかった」と説明する。これにより効果的に情報を書き込むことが可能になる。閃光により電子を1秒間に数百兆回揺り動かすこともでき、理論的には、ペタヘルツ域でのバレートロニクスが可能で、現在の計算速度の100万倍を超えることを意味する。

最大の魅力は、室温で利用できるということである。ディキシット准教授は「ラップトップのように一般の人々が使用できる小型量子コンピューターの扉を開く可能性がある」と語る。高い計算速度によって、分子シミュレーション・ビッグデータ分析・深層学習といった計算的集中作業をはるかに速く行える。新薬の開発や分子構造の解明を促進させ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む複雑な病気の治療法の手助けとなることが期待される。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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