インド工科大学マドラス校(IITM)冶金・材料工学部のスブラマンヤ・サルマ・ヴァドラマニ(Subramanya Sarma Vadlamani)教授をはじめとする研究チームは、高い強度と延性を備えた金属合金の開発に成功した。10月28日に発表した。研究成果は学術誌 Materials Science & Engineering :A に掲載された。
自動車業界では、安全性が高くかつ厳しい排ガス規制を満たす自動車を作るため、軽量化による燃料消費量の削減が重要視されている。このような要求を満たすためには、強度と延性を併せもち、広く産業界での生産が可能な新しい素材を開発する必要がある。
このような軽くて強く、生産しやすい素材を開発するために、研究チームは計算熱力学・動力学(CALPHAD)アプローチを用いた。材料を設計する際には、自動車用の材料に求められるコーティング性、成形性、溶接性などのさまざまな重要な要素を考慮した。
研究チームは計算結果に基づいて、マンガン、炭素、アルミニウム、シリコン、ニッケル、ニオブの各元素を特定の比率で鋼に混合した。さらにスチールに溶融と熱機械的処理を施し、亜鉛でコーティングした。
この新素材のさまざまな特性を実験で確認したところ、高い強度と延性を備えていることがわかった。鋼が変形したり形が変わったりする前に耐えられる応力は約720MPa、さらに1350MPaの応力がかかっても破断せず、最大応力時には約26%の伸びを示した。これらの特性を併せもつ点で、新素材はこれまでに報告された同様の鋼よりも非常に優れている。
研究成果を商業的に応用させるため、研究チームは今後、鉄鋼業界や自動車業界との連携も計画している。自動車構造物の製造には、成形と溶接が広く用いられていることについて、サルマ教授は「次の目標は、開発した材料のコーティング性、成形性、溶接性を実験的に確認することと、この材料の耐衝突性を評価するために、より高い変形率の研究を行うことだ」と話している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部