2022年02月
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概日リズムの乱れでアルツハイマー病と類似の記憶障害発症リスク インドで研究

インドの科学者らの研究で、長期間にわたる概日リズム(約25時間周期で変動する生理現象、体内時計)の乱れによってラットにアルツハイマー病に似た症状が起こることが明らかになった。

AsianScientist - 休みの日は一晩中起きて、動画配信のネットフリクッス(Netflix)で最新ヒット作品を楽しみたいと思うかもしれないが、それは考え直した方がいい。 科学誌 ACS Chemical Neuroscience に発表された研究は、ストレス、時差、不規則な睡眠時間などにより概日リズムが乱れると、多動、不安、記憶障害や神経障害のリスク増加など深刻な影響を与える可能性があると警告している。

ラットを使った最近の研究から、光への慢性的な曝露でさえ概日リズムを乱し、アルツハイマー病 (AD) などの神経疾患で見られるものと類似した記憶障害を引き起こす可能性があることが明らかになった。ただし、アルツハイマー病と概日リズムの乱れの因果関係はまだ分かっていない。

以前のことになるが、インドのショーリニ大学の研究チームは、ラットを2カ月間光に曝露させると認知障害とアミロイドβ(Aβ) の蓄積の両方が起こることを発見した。アミロイドβは、アルツハイマー病患者の脳に有害なプラークを形成することが知られているタンパク質である。このことから、チームは、光への曝露が長ければ長いほど概日リズムは乱れやすくなり、アルツハイマー病などの症状を引き起こすかもしれないと推測した。

この仮説を検証するために、チームは成体ラットを4カ月間、一定の光条件に曝露させ、ラットの概日リズムを乱した。

「体内のさまざまな臓器の細胞は昼夜のサイクルと同期しており、ホルモンを含むさまざまな生化学物質を特定の時間に放出します。これらのホルモンが発現してもタイミングが合わないと、不安、認知障害、記憶喪失など、アルツハイマー病をはじめとする脳疾患の症状を誘発する可能性があります」と主執筆者であるショーリニ大学のロヒト・ゴヤル (Rohit Goyal) 教授は説明する。

チームは実際に、一定の光条件に曝露したラットが、通常の明暗サイクルに曝露したラットと比較して、記憶障害と認知障害を見せたことを発見した。

生物学的レベルでは、チームは、慢性的な光曝露により、概日リズムを守るPer2などの遺伝子の発現が破壊されることを発見した。ラットは、概日リズムを制御する脳領域に調節不全となった神経伝達物質と酸化ストレスの兆候も示した。可溶性アミロイドβの濃度もこれらのラットの脳では有意に高かった。

チームは次に、不安や多動の治療に使用されるフルオキセチンという薬が、概日リズムの乱れに関連する生理学的異常と機能的異常を軽減できるという仮説を立てた。チームが光に曝露したラットにフルオキセチンを投与すると、酸化損傷とアミロイドβ蓄積を予防し、記憶障害と認知障害を防いだ。

この研究から、アミロイドβの上昇と概日リズムの乱れが互いに引き金となり、アルツハイマー病のような神経学的状態を作り出す背景となる可能性が証明された。幸いなことに、概日リズムを調節する予防措置を取れば回避は可能であろうとチームは指摘する。

「自然光に曝露した後は、夜間に十分な休息を取れるよう生活を変えることが、神経障害のリスクを抑えるのに大切だと考えられます。患者となりそうな人の概日リズムを最適化する治療戦略は、アルツハイマー病の有病率を抑制できる大きな可能性を秘めています」とゴヤル教授は締めくくった。

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