インド科学技術庁(DST)傘下の自治研究開発センターである国際粉末冶金・新素材先端研究センター(International Advanced Research Centre for Powder Metallurgy and New Materials : ARCI)は、細胞分子生物学センター(Centre for Cellular & Molecular Biology : CSIR-CCMB)とベンガルールにあるレシル・ケミカルズ(Resil Chemicals)社と共同で、DSTが支援するナノミッションプロジェクトのもと、自己消毒機能を備えた「銅ベースナノ粒子コーティング抗ウイルスマスク」の開発に成功した。2月4日付発表。
このマスクは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のみならず、他のいくつかのウイルスや細菌感染に対しても高い性能を示し、生分解性、高通気性、洗濯可能だという。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、エンベロープ型のポジティブセンス一本鎖RNAウイルス(enveloped positive sense single-stranded RNA virus)で、主に空気中を漂う呼吸粒子によって感染する。ため、マスク着用が最も効果的。感染予防のためのマスクの科学的解明が急速に進む中、インドでは抗ウイルス作用も抗菌作用もない高価なマスクが販売されており、病院や空港、駅、ショッピングモールなど、人が密集し、ウイルス量が非常に多い場所では、従来のマスクでは感染を抑えることが難しい。SARS-CoV-2の変異が急速に進行している現在、低価格の抗ウイルスマスクの開発は急務となっている。
ARCIは、火炎噴霧熱分解(Flame Spray Pyrolysis : FSP)処理設備により、約20ナノメートルの銅ベースのナノ粒子を開発。FSPプロセスは、溶液の前駆体を高温の熱分解によってナノ粉末に変換するもので、固形分の添加量とpHを最適化することで安定したナノ粒子懸濁液を得ることができた。このナノコーティングの均一な層が、適切なバインダーを用いて、綿布上に良好な接着性をもって実現され、コーティングされた布は、バクテリアに対して99.9%以上の有効性を示した。
CSIR-CCMBでは、この布のSARS-CoV-2に対する殺菌効果を検証し、99.9%の殺菌効果を報告した。また、ナノ粒子コーティングされた布を外層とした1層や3層などの異なるデザインのマスクの試作も行っている。特に単層マスクは、通常のマスクの上に抗ウイルス剤を塗布するアウターマスクとして有効と考えられている。現在、提携先のレシル・ケミカルズ社は、この2層構造のマスクを大規模に生産中。
従来のマスクは、ウイルスをろ過して保持するだけで死滅させることはできないため、マスクの着用や廃棄が適切でないと感染しやすいが、今回開発された、シンプルで多層構造の布製マスクは、地域社会でのCOVID-19感染を減らすための実用的なソリューションである。また、使用済みマスクの廃棄に関して、世界中で大きな懸念が表明されているが、従来のCOVID-19に有効なマスクは、ほとんどが使い捨てで生物学的分解性がないため、環境問題や廃棄物管理上、深刻な問題となっているが、今回の抗ウイルスマスクは、生分解性のある綿布を使用しており、通気性や洗濯性に優れているため、この問題の解消も期待されている。
(a) 銅系ナノ粉末のTEM像、(b) ナノ粒子コーティング布のFE-SEM像、(c) SARS-CoV-2に対して99.9%を超える有効性を示したマスク布のデータ、(d) ARCIでの単層自己殺菌マスク着用の様子
二重構造の抗ウイルス(自己殺菌)布製マスク
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部