2022年03月
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CO2浄化のための「スポンジ状」液体を開発 インド工科大学ボンベイ校

インド工科大学ボンベイ校(IIT-B)は注目すべき研究成果(Research Highlight)として、同校のカメンドラ・シャルマ(Kamendra Sharma)教授率いる研究チームが二酸化炭素(CO2)を捕捉/貯蔵し、その後それを工業的に価値のある化学物質である炭酸カルシウム(CaCO3)に変換する多孔質液体を開発したと発表した。

多孔質の液体複合材料で、産業排水から吸着したCO2をCaCO3に変換し、建築材料、セラミックタイル、チョーク、健康補助食品等の製造で再利用する道が開かれる。

産業活動からのCO2排出量は急増しており、ガスは大気中に放出されている。産業は物理的および化学的吸収法を使用して、産業排出物からCO2を回収している。しかし、これらの方法ではCO2を回収して貯蔵することしかできず、CO2は恒久的な貯蔵場所に輸送する必要があり、追加のエネルギーを消費することになる。

その新規性は、多孔性と液体内の触媒活性を組み合わせてCO2をCaCO3に変換し、CaCO3を多孔質液体から除去して再利用できるようにすることにある。蜂蜜のような粘度を持つこの多孔質液体は、製造が簡単で、連続フロー工業プロセスとの統合が容易、かつ、工業用使用温度で安定している。

恒久的な空間を持つ液体は2007年に構想され、最初の多孔質液体は2015年に製造された。それ以来、科学者はさまざまなアプローチを使用して、ガスを効率的に吸収できる多孔質液体を製造し、液体に溶解しても無傷のままである「分子ケージ」を備えた大きな有機分子を使用した。ただ、従来は多孔質液体を作成するためには、面倒な有機化学反応と複数のステップが含まれていた。 シャルマ教授のチームは2019年、シリカ・ナノロッドとポリマー(湿潤剤)を単純に組み合わせて作られた多孔質の液体が、室温でCO2を捕捉できることを発見。また、多くのエネルギーを消費せず、捕獲されたCO2を有用な化学物質に変換することには大きな価値がある。

現在の研究では、多孔質液体とバイオコンジュゲート炭酸脱水酵素(bCA)と呼ばれる酵素を組み合わせ、それに塩化カルシウムを加えることで液体複合体を作成。この酵素は、中空のシリカ・ナノロッドに吸着されたCO2と反応し、重炭酸イオンに変わる。多くの酵素は活性化するために水を必要とする。しかし、bCAは、多孔質液体が提供するポリマーの環境で非常にうまく機能する。

別の一連の実験では、ポリマー界面活性剤の液体の性質により、イオンが拡散して反応することを観察した。これは、固体では起こり得ないプロセスで、CO2がCaCO3に変換されると、液体は酸性から中性に変わる。酸性度が低下するにつれて色が変化する染料は、変換の完了を視覚的に示すことができるため、化学的試験や顕微鏡観察の必要がなくなり、反応が完了したかどうかを簡単にチェックするメカニズムの提供が可能となる。

シャルマ教授によると、ナノロッドの細孔径は気体分子よりも大きいため、提案された多孔質液体はすべての気体に使用可能。また、適切な触媒と適切な反応物を選択することで、さまざまなガスを有用な化学物質へ変換が可能となる。また、多孔質液体は、等量の市販のメソポーラスシリカ(固体)と比較して、CO2の5分の1を吸収できる。しかし、多孔質の液体は流動性があり、迅速に補充できるなど利点がある。

ただし、現在、多孔質液体のコストは高く、酵素も高価であるため、より安価な製造方法や安価な代替品を見つけるための研究がなされている。

この研究は、欧州化学協会の化学-持続可能なエネルギー-材料(ChemSusChem)ジャーナルに2021年7月1付で掲載、IIT-BのHPにて紹介された。また、同研究は、IIT-Bの産業研究コンサルタントセンターおよび科学技術庁(DST)傘下の科学技術研究委員会(SERB)によって資金提供された。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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