AsianScientist (2022年02月08日)-インドと米国の研究チームは、ミバエの殺虫剤耐性遺伝子を感受性の高い形態に置き換え、農場での殺虫剤の使用を減らす方法を考案した。
インドと米国の研究チームは、強力な遺伝子編集技術を活用して、ミバエに殺虫剤耐性を与える遺伝子を置き換えた。Nature Communications 誌に掲載されたこの技術は、殺虫剤の使用量を減らし、害虫駆除の新しい方法となるかもしれない。
侵入昆虫は世界中の作物生産の約40%を破壊し、世界経済に年間少なくとも700億米ドル(約8兆円)の損失をもたらす。殺虫剤は、マラリアなどの蚊媒介性疾患の蔓延を抑えるだけでなく、作物の被害を抑える上でも重要な役割を果たす。
しかし、長年の間に、多くの虫がこのような殺虫剤に対する耐性を発達させてきた。問題を悪化させているのは、過剰な殺虫剤の使用そのものである。昆虫は殺虫剤に遺伝的に適応し、これらの化学噴霧に対する感受性は低下した。
インドのタタ遺伝学社会研究所(Tata Institute for Genetics and Society in India)の研究者らと海外の協力者らは、ゲノム編集技術として知られるCRISPR / Cas9(クリスパー・キャスナイン)技術に基づいて、昆虫の殺虫剤に対する本来の感受性を回復するための新しい遺伝子編集戦略を開発した。彼らは、電位依存性ナトリウムチャネル (vgsc) と呼ばれる昆虫タンパク質に注目した。vgscは殺虫剤の化学物質が攻撃対象とするものとして一般的なものだが、遺伝子変異によってタンパク質の構造が変化すると、殺虫剤はvgscに結合できなくなり、耐性ができてしまう。
研究者らは耐性の子孫への遺伝についても調べた。幼虫はそれぞれの親から1つずつ、2つのバージョンの遺伝子を継承する。チームは、これらの変異体の遺伝を変えるために、親のDNAを特定の部位で切断するCRISPR/Cas9にアドオン技術を加えた。もし感受性と耐性のある昆虫が交尾すると、耐性のある変異体が切り取られ、子孫の遺伝物質に存在する遺伝子の通常のコピーに置き換えられる。これにより、遺伝的矯正が集団全体に広がり、通常のvgscタンパク質を持つ昆虫が生まれる。
概念実証として、研究者らは、十分に確立された遺伝子モデルを持つミバエでこの方法を試験した。この結果、83%の耐性ミバエと17%の感受性ミバエから成り立つミバエの個体群では、CRISPR / Cas9戦略は最終的に10世代のうちに比率を逆転させ、個体群の87%は殺虫剤に感受性を持っていたことを突き止めた。
研究者らは、この成功について、遺伝子変異の遺伝を正常な遺伝子のコピーを選択する方向にバイアスをかける手法のおかげであると述べた。本来ならば、自然の進化の力は生存性を高めるため耐性の変異体を持つ昆虫を選ぶところだが、この方法を使うと、たとえ耐性を犠牲にしても、より多くの昆虫が感受性の高い型を採用するようになる。
研究者らは、蚊など他の昆虫についても同様のアプローチを追求することができると強調した。たとえば、蚊をマラリア原虫に感染させやすくする遺伝子を、自然に発生し寄生虫に耐性を持たせる変異体に置き換えることができる。チームは、この新しい方法を使えば、殺虫剤の量は相当少なくても害虫を効果的に防除できると期待している。
チームは最後に「概念実証は成功しました。これは殺虫剤耐性集団を、感受性を持つ標的に戻すなど多くの可能性を開きます」と期待を込めた。