インド理科大学院(IISc)は4月20日、インド宇宙研究機関(ISRO)と共同で火星の土からレンガを作る方法を開発したと発表した。作製されたレンガは火星での建築に使用でき、人類の火星定住につながる成果だ。研究成果は4月14日に学術誌 PLOS One に掲載された。
研究グループは、火星の土を模した土とグアーガム、バクテリアの1種であるSporosarcina pasteurii、尿素、および塩化ニッケルを混合してスラリーを作り、このスラリーを型に流し込んで数日間静置すると、バクテリアが尿素を炭酸カルシウムの結晶に変化させることを突き止めた。この結晶と、微生物から分泌されたバイオポリマーがセメントの役割を果たし、土の粒子が結合してレンガとなる。
これまでにも火星の土を材料としてレンガを製造する手法についての研究例はあったが、従来の手法ではレンガの多孔性(たこうせい=表面に小さい穴がたくさんあいている性質)という問題があった。今回開発された手法は、バクテリアが孔隙(こうげき=土や岩石に含まれている隙間)の深くまで浸透するため、空隙率を減少させることができる。
また、以前に同研究グループが提案した方法では円柱状のレンガしか製造できなかったが、今回の研究ではスラリー鋳造方式を採用したことにより、複雑な形状のレンガを作ることが可能になった。さらに、火星の土は鉄の含有度が高いため生物に対する毒性が生じ、当初バクテリアの成長が阻害されたが、塩化ニッケルを付加することにより、バクテリアが生存可能な環境をつくることができた。
実際の火星では、大気における二酸化炭素(CO2)の高含有度(95%)がバクテリアの成長に影響を与えると考えられている。同研究グループは火星大気シミュレーター「MARS」 を使って、火星の大気がバクテリアに与える影響をテストする予定。またグループは微小重力環境でのバクテリアの活動を計測するデバイスも開発済みであり、将来的にはこうしたデバイスを宇宙空間に送ることも計画している。
研究を行ったIIScのアロケ・クマール(Aloke Kumar)准教授は、「世界中の研究者が他の惑星への移住を見据えた研究に打ち込んでいます。すぐに実現は難しいかもしれませんが、とてもワクワクしています」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部