2022年06月
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システム理論を適用して生物学的適応の仕組みの一端を解明 インド工科大学マドラス校

インド工科大学マドラス校(IIT-M)は5月10日、生物学的適応を可能にする細胞ネットワークの構成について、システム理論を使って解明する新たな手法を提案したと発表した。この成果は、学術誌 PLOS Computational Biology に掲載された。

外部からの刺激に対して生体のシステムを当初の平衡状態に戻す「適応」は、生物の生存・進化において重要な役割を持つが、生体のこうした機能は、生物ネットワークの構造によって決定されることが分かっている。これは、生体の特定の機能と生物ネットワークの構造の関連を理解すれば、合成生物学や治療薬に関する研究をさらに進展させることができることを意味する。

しかし、生体には膨大な数の複雑な生物ネットワークがあり、各ネットワークをひとつずつチェックするのは非現実的である。生物ネットワークの解明にはこれまでグラフ理論やルール・ベースなどの手法も使われてきたが、化学・電気工学分野で広く使われているシステム理論と呼ばれる数学的なモデルを使うと、複雑な生物ネットワークの理解を深められることが今回、判明した。

IIT-Mの研究チームが提案した手法は、システム理論を使って生物学的適応の状態を数式で説明するものだ。この手法は他のアルゴリズムに比べて必要な仮説や知識が少なくて済み、組み合わせ数学を使って、数式からネットワークの必須構造へと逆マッピングすることもできる。この研究により、完全な適応状態を発現させるためには特殊な負のフィードバックやインコヒーレント・フィードフォワードのいずれかが必須条件であることが分かった。また、適応ネットワークが、外部からの刺激を他の生物化学ネットワークより先に感知できる可能性があることも示された。

米アプライド・バイオマス(Applied Biomath)社の上級研究者であるケム・ラジ・グシンガ(Khem Raj Ghusinga)博士は、「システム生物学で重要なのは、特定の生物学的機能について繰り返し現れる一定の構造をつかむことです。今回の研究は、適応を可能にする細胞ネットワークの仕組みについての理解を深め、今後、生体の構造や生体制御の仕組みの原理の解明に貢献するでしょう」と、研究成果を称える。グシンガ博士はこの研究には関わっていない。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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