2022年06月
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薬剤耐性菌を熱で殺菌...歯の深部で滅菌できるナノロボットを開発 インド理科大学院

インド理科大学院(IISc)は5月16日、IISc発のスタートアップ企業セラノウティルス(Tranautilus)社が共同で、磁場を用いて操作できるナノサイズのロボットを開発したと発表した。このロボットは歯の奥深くまで入り込み、薬剤耐性菌も熱で殺菌することができる。研究成果は学術誌 Advanced Healthcare Materials に掲載された。

神経や血管を含む歯髄と呼ばれる組織が細菌に感染した場合、根管治療と呼ばれる処置が必要となる。根幹治療は、歯髄を除去し、抗生物質や薬剤で歯を洗い流して、感染症を引き起こす細菌を殺すことで、感染症を治療する。しかし多くの場合、象牙細管と呼ばれる歯の微細な管の中に潜む薬剤耐性菌を完全に除去できないことが課題となっていた。

この課題を解決するため、IIScの研究者グループは、らせん状のナノボットを設計した。二酸化ケイ素を鉄でコーティングしたボディをもち、低強度の磁場を発生させる装置を使って制御することができる。このナノロボットは、表面を発熱させて細菌を死滅させる。

研究グループは、開発したナノボットを歯のサンプルに注入したところ、ナノロボットは磁場で精密に制御でき、象牙細管の奥深くまで入り込ませることができた。また、表面を発熱させて実際に細菌を死滅させること、歯の奥深くからナノボットを回収できることも確認した。

熱を利用して細菌を殺すことは、刺激の強い化学薬品や抗生物質に代わる安全な方法である。研究グループは、歯科医が歯の内部にナノボットを注入して操作できるよう新型医療機器の開発にも取り組んでいる。

セラノウティルス社は、ナノサイエンス・エンジニアリング・センター(CeNSE)のアンバリッシュ・ゴーシュ(Ambarish Ghosh)教授の研究室で行われた、磁気制御ナノ粒子に関する数年にわたる研究から生まれた。

ゴーシュ教授は「3年前まではまだ実現は難しいと思われていたこの技術の臨床応用まで、あと少しです」と話し、共同設立者デバヤン・ダスグプタ(Debayan Dasgupta)氏は「今、市場でこれを実現できるテクノロジーは他にありません」と自信をのぞかせた。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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