インド工科大学マドラス校(IIT-M)は、同校の研究者らが、ラマン分光法やディープラーニング、モンテカルロシミュレーションを組み合わせた新手法により、腫瘤の外科的切除直後に腫瘍の範囲を精度良く特定することができるようになったと発表した。11月1日付け。研究成果は科学誌 Journal of Physics D: Applied Physics に掲載された。本研究は、非侵襲で腫瘍の大きさと深さを特定することで、がん治療における外科的介入の効果・効率を高めると期待が寄せられる。
がん手術における重要課題の一つは、腫瘍の断端に関する情報を得ることである。非侵襲ながん組織検出方法として期待されているラマン分光法は、異なるタイプのがん組織を約99%の精度で分類可能である。しかし、従来のラマン分光法では、周辺組織からの光干渉により、透過深度に限界がある。
これらの欠点を解消するため、IIT-Mのスジャータ・ナラヤナン・ウンニ(Sujatha Narayanan Unni)教授らの研究チームは、モンテカルロシミュレーションを用いた空間オフセット型ラマン分光法(SORS)にディープラーニングの手法を組み合わせる研究を行った。
本研究における腫瘍の深さ予測では、二乗平均平方根誤差(RMSE)が4.4%と、先行研究のRMSE(7~25%)から大幅に改善された。臨床医が、手術中に非侵襲で腫瘍の範囲を把握するために、腫瘍の縁を定量化できるようになると期待される。また、腫瘍の発達や治療モニタリングにも活用できる可能性がある。
インド工科大学ボンベイ校(IIT-B)のハリ・M・バルマ(Hari M. Varma)准教授は、以下のようにコメントし、本研究の重要性を認めている。
「がんの診断や治療において、がんの深さや大きさを特定することは非常に重要です。ラマン分光法の異なるがん組織を検出・分類する能力とSORSを組み合わせることで、がん組織の深部イメージングを実現できるのです。しかし、空間分解測定は組織の浅い部分に有利なため、正確な深さ方向の特定は困難であり、外科的介入に支障をきたすことがあります」
「今回初めて、著者らはこの問題に対して、モンテカルロ法に基づくSORSに畳み込みニューラルネットワークベースの学習アプローチを組み込むことで、腫瘍の大きさの評価とともに、より良い深さ方向の位置特定を達成するソリューションを提供しました。この研究は非常に重要な臨床応用であり、さらなる大規模な臨床試験を行う必要があると思います」
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部