2023年01月
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イメージング・センシング・防衛技術分野で新規ナノ構造による赤外線吸収技術を開発 インド

インド科学技術庁(DST)は、傘下の独立研究機関でベンガルールにあるジャワハルラール・ネルー高度科学研究センター(Jawaharlal Nehru Centre for Advanced Scientific Research:JNCASR)が、GaN ナノ構造による赤外線(IR)光の放出と吸収を初めて実現したことを発表した。

GaNナノ構造のポラリトン励起による光操作(Light Manipulation)。GaNナノ構造の形態を操作することでポラリトン励起の調整が制御される
(PIBリリースより)

青色発光ダイオードに広く使用されている材料である GaN は最先端の半導体である。GaNの可視光および紫外光への応用はすでに実現され、LED やレーザーダイオードとして広く活用されている。一方、IR集光や GaNベースのIR光学素子開発への GaNの利用は実現できていない。今回開発された、IR光をGaN ナノ構造で閉じ込めて吸収するという新しい方法は、防衛技術、エネルギー技術、イメージング、センシングなどに役立つ高効率の赤外線吸収体、エミッター、変調器などの開発に寄与すると考えられるものである。

GaN からの青色発光は以前から知られており、LED で使用されているが、IR光と物質の相互作用がGaNで実証されたのは初めて。今回の研究の実証においては、IR スペクトル範囲での光-物質相互作用につながるGaNナノ構造の表面ポラリトン(Polariton)励起と呼ばれる科学現象が利用された。

表面ポラリトンは、導体と空気などの絶縁体の界面を伝わる電磁波の特殊なモードである。ナノ構造の形態と形状を変更することで、GaNでプラズモン・ポラリトン(Plasmon Polaritons)を励起することも可能で、その結果、光と物質の結合が電磁スペクトルの範囲にまで拡張される。このポラリトンは、光と物質の両方の特性を持つ準粒子のことである。

今回、このGaN ナノ構造を成長させるために、JNCASRの国際材料科学センター(International Centre for Materials Science)が持つ分子線エピタキシーと呼ばれる特殊な材料堆積装置が利用された。この装置では、宇宙空間の条件に似た超高真空を使って人間の髪毛幅の約10万分の1のサイズの高品質の材料ナノ構造を成長させることができるといわれている。

このような最先端材料により、従来の電子デバイスに様々な利点を提供するポラリトン・ベースのデバイス作成が可能となる。例えば、ポラリトニック技術によって、安全な高速光ベース通信であるLiFi(Light Fidelity)や、次世代光源、太陽エネルギー変換器、量子コンピューター、廃熱変換器など幅広分野での応用が可能となるとされている。

2022年12月24日付け発表。この研究結果は Nano Letters に掲載された。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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