インド科学技術庁(DST)傘下の研究機関でプネー市にあるアガルカー研究所 (Agharkar Research Institute: ARI) は、椎間板細胞から分泌される細胞通信ネットワーク因子2a (Cellular communication network factor 2a: Ccn2a) と呼ばれるタンパク質が、老化、変性した椎間板の再生と細胞増殖を促進することにより椎間板の再生を誘導し、また、線維芽細胞増殖因子レセプタ-ソニック・ヘッジホッグ(FGFR1-SHH: Fibroblast Growth Factor Receptor-Sonic Hedgehog)経路を調節することにより細胞の代謝を促進することを発見した。2023年1月7日付けで科学技術省が発表した。
医療診断によりヒトの椎間板の変性段階は分かるものの、椎間板の維持に役割を果たす細胞および分子プロセスに関する情報はあまり得られない。ヒトの場合、老化などで椎間板は自然に変性し、腰、首、付属肢の痛みなど、関連する多くの健康上の懸念につながる。現在、椎間板変性症の対症療法として鎮痛剤や抗炎症剤などは存在しており、重症例では椎間板置換術または椎間板固定術が行われているが、ヒトの椎間板変性の抑制や椎間板再生を促進するための治療法を開発することが喫緊の課題であった。
今回の研究では、椎間板の維持に積極的な役割を果たし、椎骨間の老化した椎間板の再生を促進するゼブラフィッシュ(和名シマヒメハヤでコイ科の小型魚)の骨格に存在するタンパク質が、変性したヒトの椎間板の再生を促進する潜在的な治療上の意味を持つ可能性があることが分かった。
この研究はゼブラフィッシュをモデル生体として利用し、内因性シグナル伝達カスケードを活性化することにより、変性した椎間板の椎間板再生を誘導できることを示す最初の生体内(in vivo)での研究であり、また、Ccn2a-FGFR1-SHHシグナル伝達カスケードが、椎間板の維持と椎間板の再生の増強に積極的な役割を果たしていることも判明した。遺伝的および生化学的アプローチを使用したこの研究は、椎間板変性の抑制や変性したヒト椎間板の椎間板再生の誘導方法の開発に貢献するとみられている。
今回の研究結果は、研究ジャーナル Development に掲載された。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部