2023年05月
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新たな触媒発見、CO2還元へ高い触媒性能―気候変動との闘いに寄与 インド・タタ基礎調査研究所

インド科学技術省の4月10日付けの発表によると、ムンバイにあるタタ基礎調査研究所(Tata Institute of Fundamental Research: TIFR)は、強力な金属-担体相互作用(Strong Metal Support Interactions: SMSI)と欠陥サイト協同性(Defect Sites Cooperativity)の概念を使い、Cu触媒の触媒活性と安定性を改善する方法について研究を実施した。その結果、二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)への変換のために、酸化チタンでコーティングされた樹枝状繊維状ナノシリカ (DFNS/TiO2-Cu)に担持された活性な銅部位を持つ触媒を発見した。DFNS/TiO2の繊維状形態と高表面積により、単分散銅ナノ粒子(Cu NP)活性部位の分散の向上と高負荷が得られた。

人類は産業と生活活動を推進するために化石燃料を大量に使用してきた。その結果、大量のCO2が大気中に排出され、地球の気候システムに様々な悪影響をもたらしている。その一方で、CO2は価値のある様々な化学物質や燃料を合成するための有用な炭素資源にもなり得る。

貴金属触媒については数多くの研究がなされているが、触媒性能に比較してコストが高いため、従来はその用途は限られていた。また、非貴金属触媒ファミリー中で、Cuベースの触媒は最も汎用性の高い触媒の1つであり、多くの産業プロセスにおいて優れた可能性を秘めているが、残念なことに銅のタンマン温度(※)は低く、その結果生じる表面移動により反応中にナノ粒子が焼結し、ナノ粒子の活性と長期安定性が制限されている。

しかし、今回報告されたこの触媒は、すべての銅ベースの熱触媒よりも優れた5350mmol g-1h-1(53506mmol gCu-1h-1)のCO生産性を備えており、CO2還元のための高い触媒性能を示した。特に、DFNS/TiO2-Cu10はCOに対して99.8%の選択性に加えて、少なくとも200時間の安定性を示した。CuとTiO2間の欠陥制御された強力な金属-担体相互作用により、銅ナノ粒子が担体の表面にしっかりと固定され優れた触媒安定性が得られた。

また、電子エネルギー損失分光法(EELS) 、in-situ(その場:イン・サイチュ)拡散反射赤外フーリエ変換分光法、H2温度プログラム還元、密度汎関数理論計算、および長期安定性から、銅サイトとTi3+サイトの間に強い相互作用があり、良好な安定性および活性銅部位の分散が確保されていることが確認された。

DFNS/TiO2-Cuの優れた触媒性能とin-situメカニズム研究により、強力な金属-支持体相互作用の調整における欠陥の可能性が示された。このアプローチは、さまざまな活性部位と欠陥のサポートを使用した触媒システムの開発につながる可能性を示すものである。

同研究(Defects Tune the Strong Metal-Support Interactions in Copper Supported on Defected Titanium Dioxide Catalysts for CO2 Reduction)は、Journal of the American Chemical Society2023に掲載された。

(※)タンマン温度:固体において拡散がはじまる絶対温度。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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