インド工科大学(IIT)ボンベイ校は、材料科学と電気化学原理を応用して、高性能ナトリウム(Na)イオン電池の開発に必要な主要素とパラメーターを発見した。5月16日付け発表。同研究では、Naイオン電池用のナトリウム遷移金属酸化物ベースの正極材料の空気/水に対する不安定性と、構造的かつ電気化学的な不安定性に同時に対処できる方法を発見した。これにより空気/水に対して安定した高性能の新しい正極材料の開発に繋がるものであるという。
この研究は、インド科学技術庁(DST)傘下の科学工学研究委員会(SERB)とDSTのエネルギー貯蔵用材料開発スキームによって支援され、新しく開発された材料が持つ高い電気化学的サイクル安定性と空気/水への曝露時の安定性により、家庭用電子機器を含むさまざまな用途に対し、費用対効果を持つ、グリッドエネルギー貯蔵、再生可能エネルギー、そして最終的には電気自動車(EV)から得られるエネルギーの貯蔵を含む持続可能なエネルギー貯蔵システムの開発を可能とするものであるという。
近年、気候や環境への懸念から、EVの重要性が高まる中、リチウムイオン電池を超えた、低コストで環境に優しく、安全で持続可能なアルカリ金属イオンバッテリーの開発が不可欠と言われている。他のアルカリ金属イオン電池と同様に、Naイオン電池には正極活物質と負極活物質(金属集電箔上に担持) があり、セルの充放電中に電荷担体 (Naイオン) の可逆的な挿入/除去が容易になる。インドにはNa資源が豊富で、Naイオン電池の開発はインドにとって非常に重要な課題である。
このような電池では、正極材料は、まずはNa貯蔵庫となり、電池の性能は電極の構造的/電気化学的安定性、Na輸送速度、および様々な抵抗 (本質的に動的)に依存する。Naイオン電池には多くの利点があるが、様々な用途での層状ナトリウム遷移金属酸化物(Na-TM-Oxide)ベースの正極材料の電気化学的挙動/性能と湿気中で安定性を持つNaイオン電池の開発には大幅な改善が必要となっている。それは、安定性の欠如によるNa-TM-Oxide の取扱い/保管の難しさが、電気化学的性能にも悪影響を及ぼすからである。さらに、電極には水ベースのスラリーを使用する可能性があるが、水に対する不安定性のため、N-メチル-2-ピロリドン(N-Methyl-2-pyrrolidone: NMP)などの有毒で危険かつ高価な化学物質の使用が必須となるからである。
同研究は、Chemical Communications誌に掲載された論文で、TM-O結合の共有原子価(TM-O bond Covalency)を調整することでスラブ間の間隔(Interslab Spacing)を導入することで、Naイオン電池正極のNa-TM酸化物構造の交互スラブ層状構造が変化することを示したものだ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部