インド工科大学マドラス校(IIT-M)は6月1日、同学の研究者らが、近赤外線(NIR)から赤外線(IR)領域の波長を用いて、さまざまな大きさの生体分子を低ダメージで細胞内輸送する新しいオプトポレーションを開発したことを発表した。
核酸やタンパク質などの生体分子を細胞内に導入する方法として、化学的、生物学的、物理学的な手法があるが、より有利な方法として細胞膜を破壊し、一時的な微小孔を開ける物理学的手法が挙げられる。膜を破壊するエネルギー源にはさまざまな種類があるが、光を照射して衝撃波を起こし、細胞に微小孔をあけるオプトポレーションに関して今回の研究が行われた。
研究では、IIT-M工学デザイン学科のアシュウィニ・シンデ(Ashwini Shinde)博士、生物工学科のソウビック・デイ(Souvik Dey)氏、インド科学教育研究大学ティルパティ校(IISER-T)のスラバニ・カル(Srabani Kar)博士、豊橋技術科学大学の永井萌土博士らが、NIR領域の波長を用いたオプトポレーションを行い、チタン製マイクロリング(TMR)デバイスを細胞内に輸送することに成功した。
従来の方法で使用する紫外線から可視光線までの波長は細胞にダメージを与え、なおかつ低分子しか輸送できないという欠点があり、この問題を解決するために、生体適合性が高く、細胞へのダメージが少ないNIRからIR領域が選択された。また、TMRデバイスは、制御された均一で並行な細胞内送達と高い細胞生存率を有しており、既存の方法で使用される金や炭素の微粒子より有効であることも明らかとなった。
さらにTMRデバイスは、ヨウ化プロピジウム(PI)色素(668.4Da)、デキストラン(3kD)、低分子干渉RNA(13.3kDa)、プラスミドDNA(6.2kb)、β-ガラクトシダーゼ酵素(465kD)などのさまざまな大きさの生体分子を、ヒト子宮頸がん(SiHa)、マウス線維芽細胞(L929)、マウス神経冠由来(N2a)細胞に輸送することに成功した。
韓国の江原国立大学バイオシステム工学科のイム・キテク(Ki-Taek Lim)教授は、「TMRシステムを含む本研究の成果は細胞診断や治療への応用に大きく貢献するでしょう」と研究の意義について語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部