2023年07月
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サルモネラ菌は2つのアプローチで宿主の防御を回避する インド

インド理科大学院(IISc)微生物・細胞生物学部門(MCB)は、食中毒の原因にもなるSalmonella enterica(サルモネラ菌)が、人体の防御機構を回避するために2つの戦略をとっていることを発見した。5月26日付け発表。研究成果は学術誌Microbes and Infectionに掲載された。

サルモネラ菌は人体への感染後、サルモネラ菌含有液胞(SCV)という液胞膜に包まれ存在している。これらの感染に対して免疫細胞は、活性酸素種(ROS)や活性窒素種(RNS)を産生し、SCVを分解する。その後、リソソームやオートファゴソームが融合することで菌も破壊される。

IIScの研究チームは、サルモネラ菌が生産するSopBという重要なタンパク質が、SCVとリソソームの融合とリソソームの生産の両方を阻止し、菌を守るための二面的なアプローチをしていることを突き止めた。

SopBは脱リン酸化酵素として、膜脂質の一種であるホスホイノシチドからリン酸基を取り除く手助けをする。この働きによりサルモネラ菌がSCVの動態を変化させ、液胞膜とリソソームが融合することを阻害している。以前の研究からは、サルモネラ菌に感染すると、宿主細胞で作られるリソソームの数が減少することや、SopBを産生できない変異菌は、宿主のリソソーム数を減らすことができないことも分かっていた。そこで研究チームは、高度なイメージング技術を駆使して、SopBがリソソームの生成に果たす役割を詳しく調べることにした。

その結果、SopBは、転写因子EB(TFEB)が宿主細胞の細胞質から核に移動するのを阻止していることがわかった。TFEBはリソソーム産生のマスターレギュレーターとして機能するため、この移動は極めて重要だ。

本研究の共著者でMCB教授のディプシカ・チャクラヴォルティ(Dipshikha Chakravortty)氏は「本研究の新規性は、SopBが既存のオートファゴソームやリソソームとの液胞膜融合を阻害する機能を持つこと、およびSCVとリソソームの比率を高めることでサルモネラ菌に生存優位性を与える第2のメカニズムを特定したことにあります」と語った。

研究チームは、SopBに対する低分子阻害剤やTFEBの活性化剤を使用することで、サルモネラ菌の感染に対抗できることを示唆している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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