インド科学技術庁(DST)は、傘下のS. N.ボーズ国立基礎科学センター (S.N. Bose National Centre for Basics Sciences: SNBNCBS)の研究者グループが、情報因果律の原理(Principle of Information Causality)と呼ばれる新しい情報原理を使い、複数の量子オブジェクトを含む複合量子システムで、どのような種類の記述が自然的に許されないかを確認することで、複数のサブシステムから構成される複合量子システムの数学的構造の理論的根拠を発見したことを発表した。5月29日付け。
量子力学はミクロの世界の物理現象を記述する理論であり、20世紀初頭にドイツの物理学者マックス・プランクが、黒体放射曲線や光電効果などの実験結果を説明するために、ある特定の状況下ではエネルギーが物理的な物質の性質を示すことを物理実験によって証明することで考案された。その後、アルバート・アインシュタイン、ニールス・ボーア、ルイ・ド・ブロイ、エルヴィン・シュレディンガー、ポールM.ディラックなどの科学者が、プランクの理論をミクロの世界で最も正確な数学理論である量子力学に発展させた。
量子力学は、物理的に導かれた公準に基づいて構築される他の物理学の理論とは異なり、抽象的な数学公理から始まる。たとえば、特殊相対性理論の2番目の公準は、「どの情報も光速より速く伝わることはない」としているが、量子力学においては、「物理系の状態は、複雑で分離可能なヒルベルト空間内のベクトルによって記述される」という公理から始まる。科学者たちは、さらに高いレベルでの物理的理解を求めて、物理的に導かれた公準から始めて、量子論の数学的構造を再導出する取り組みを現在も続けている。過去四半世紀の間に、量子情報理論の出現により、この「再建プログラム」に対する新たな考え方が加わっている。
Physical Review Lettersに掲載された最近の研究論文では、さまざまな数学的な可能性の中から量子構成規則を選択する際に、情報因果関係が重要な役割を果たすことが証明されている。実際のところ、情報因果関係においては、その結果として得られる理論が古典的な相関 (ベルの局所相関) のみを許容するという意味において、古典的な世界観に近い構成規則を破棄することになるという。このため情報因果関係は、量子力学の数学的構造を導き出す際に、他の原則よりも優れている。このように、SNBNCBSの研究は、量子論の数学的構造に対して新たな物理的正当性を発見したという。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部