2023年08月
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ピコリン酸が新型コロナウイルスの侵入を阻止 インド

インド理科大学院(IISc) は7月18日、哺乳類細胞によって産生される天然化合物であるピコリン酸が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) やA型インフルエンザウイルスなどのエンベロープウイルスの宿主細胞への侵入を阻止することを発見したと発表した。研究成果は学術誌Cell Reports Medicineに掲載された。

ピコリン酸は、腸からの亜鉛やその他の微量元素の吸収を助けることが知られているが、天然型では体内に留まる時間が短く、通常はすぐに排泄されてしまう物質だ。数年前、IIScの研究チームは、ウイルスや細菌が細胞内に侵入する際に利用するエンドサイトーシスをテーマに研究を開始した。その過程でピコリン酸が宿主細胞へのウイルス侵入を遅らせる可能性があることが分かり、抗ウイルス性をテストすることにした。

「この研究中にパンデミックが発生したため、新型コロナウイルスへの影響を調べたところ、強力に影響することが分かりました」と、感染症研究センター(CIDR)、微生物学・細胞生物学部門(MCB) のシャシャンク・トリパティ(Shashank Tripathi) 助教授は説明する。

注目すべきは、ピコリン酸がジカウイルスや日本脳炎ウイルスのようなフラビウイルスを含むさまざまなエンベロープウイルスに対して有効であることだ。エンベロープウイルスが宿主細胞に侵入する際、ウイルスのエンベロープと宿主細胞膜が融合して孔ができ、そこからウイルスの遺伝物質が宿主細胞に侵入して複製を開始する。研究者らは、ピコリン酸がこの融合を特異的に阻害することを発見した。

CIDRのリサーチ・アソシエイトで論文の筆頭著者であるローハン・ナラヤン(Rohan Narayan) 氏は、「私たちは現在、この化合物の有効性、安定性、宿主体内での吸収性を高めることに焦点を当てています。この化合物の臨床開発を促進し、現在だけでなく差し迫ったウイルス感染症に対しても使用できるよう、製薬企業との提携を模索しています」と研究の進捗について語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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