インド工科大学マドラス校(IIT-M)の応用力学科の研究者らが、肺が左右で非対称的な構造をもつことにより、病原体を含んだエアロゾルに対する自己防衛力を向上させている可能性があることを発見した。8月1日付け。研究成果は学術誌Natureに掲載された。
人間の体は外からでは左右対称に見えるが、内臓では左右非対称のものがある。例えば、右肺は左肺より大きいことが分かっている。しかし、この非対称性は肺の構造全体に見られ、気道分岐単位にまで及んでいる。そのため、機能的にも重要であることが示唆されている。
そこでIIT-M応用力学科のデビジット・クンドゥ(Debjit Kundu)氏とマヘーシュ・V・パンチャニュラ(Mahesh V. Panchagnula)教授は、肺の機能性と性能に対する肺の非対称性の役割について初めて研究した。
肺の一次機能は、肺に空気を供給する気管支を通して、肺尖部で外気と血液との間のガス交換を行うことだ。また、肺には二次的な機能もあり、吸い込む空気に含まれる、煙、ほこり、エアロゾルなどの不純物を取り除くことができる。しかし、肺そのものには不純物に対する適切な防御機構がないため、肺の防御機構は、不純物が肺の壁に沈着してから初めて作動する。
本研究では、肺の構造と機能の関係を探るために、気管支の樹状化数理モデルが開発された。この数理モデルは、肺の自然な非対称性が、あまり議論されていない肺の二次的機能、すなわちエアロゾルのろ過を最適化する一方で、一次的な機能であるガス交換効率はいくらか犠牲にしていることを示した。この研究は、気管支の非対称性に関するより系統的な研究への第一歩であり、将来、効率的で個別化された薬物送達システムを開発する上で重要な要因となりうる。
インドのスリ・ヴェンカテスワラ医科大学の医学部長であるアラディ・モハン(Alladi Mohan)博士は、「彼らの興味深い数理モデルから得られた観察結果より、肺の左右非対称性のある構造的特性が病原体を含んだエアロゾルに対する自己防衛を助ける可能性があることが分かりました。これらの観察結果は、新たな進化の視点を開くとともに、薬物やドラッグデリバリーシステムを設計するための重要な治療的可能性をも開くものです」と結果の意義について語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部