インド工科大学マドラス校(IIT-M)は8月8日、研究者らが眼疾患の治療のために、眼内投与された薬剤の標的部位への送達を促進する方法を研究していることを公表した。
眼疾患の治療は、生活の質を高めるために不可欠である。一般的に行われる硝子体内への薬の投与は水晶体と網膜の間にある硝子体液というゲル状の物質に薬剤を注入する。網膜の手術を受けた患者では、ゲル状の硝子体液が取り除かれ、粘性の低い人工液体に置き換えられている。このような代用硝子体液に薬剤を投与すると、薬剤が効果を発揮するためには、代用硝子体液を通過して標的部位(通常は網膜)に到達しなければならない。自然拡散はゆっくりとしたプロセスのため、薬物が標的部位で有効レベルに達するには数時間から数日かかることがある。
IIT-Mの機械工学科伝熱・火力研究室のアルン・ナラシマン(Arunn Narasimhan)教授とシュリニヴァス・ヴィブテ(Shrinivas Vibhute)氏は、眼内投与された薬剤の標的部位への送達を促進する方法を研究しており、対流を利用した拡散に注目している。教授らは、これまでにレーザー照射によって硝子体液模型に熱を加え、薬剤を循環させ、標的箇所への効率的な送達を示すシミュレーション研究を行った。今回、ヴィブテ氏はこれを証明するための実験装置を設計した。装置は、ガラスの眼球で構成されており、硝子体液の代用品として、水とシリコーンオイルが使われ、ヒーターによる加熱が行われた。実験では、水晶体付近と眼窩底の2カ所に薬剤の代用として色素を注入した。濃度測定は、網膜表面の2点において、加熱なしと加熱後に行った。
その結果、加熱後、液体の対流によって色素の分布が速くなることがわかった。純粋な拡散では、薬剤が網膜で一定の濃度に達するのに12時間かかったが、加熱ではわずか12分で達した。また、標的部位における薬物濃度も、純粋な拡散と比較して、対流を利用した送達では56.25倍となった。
これらの結果は、網膜表面に眼球にダメージを与えない程度の穏やかなレーザー照射加熱を行うことで、対流が開始され、注射部位から網膜上の標的スポットへの薬物輸送が促進されることを示している。この革新的なアプローチは、治療効果を高め、それによって現在必要とされているような複数回かつ頻繁な注射の必要性を減らす可能性を秘めている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部