2023年09月
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超短パルスによるMoS2量子ドットの励起後、電子と正孔が量子液体のような凝縮凝集体形成 インド

インド工科大学マドラス校(IIT-M)の物理学科の研究者らが、時間分解分光の研究により、超短パルスによるMoS2量子ドットの励起後の室温での電子と正孔が量子液体のような凝縮凝集体を形成し、励起後数ピコ秒にわたって存在していることを明らかにした。8月22日付け発表。電子-正孔液体(EHL)によるBGRの実験的証拠が報告されたのは今回が初めて。

シリコン(Si)などによる半導体は多くの電子機器に利用されている。近年、低次元遷移金属ジカルコゲナイド(TMDC)と呼ばれる半導体材料が研究者の注目を集めている。TMDCはMX2という式で表される原子レベルの薄い半導体材料で、Mはモリブデン(Mo)などの遷移元素、Xは硫黄(S)などのカルコゲン元素である。この材料には有用な特性があり、オプトエレクトロニクスやバレートロニクスに利用されている。

これらの系における光誘起ダイナミクスは、励起子など準粒子の観点から研究されてきた。適切な条件下では、これらの励起子粒子が凝縮して、電子-正孔液体(EHL)相のような量子クラスターが形成される。EHLはTMDCの性質を利用した室温アプリケーションの実現や、それらを用いたデバイスの実現において重要な役割を果たすため、凝縮体のダイナミクスに関する研究に注目が集まっているが、EHLの形成には低温条件が必要であるため、室温ではほとんど利用できないままであった。しかし、TMDCを用いることで、EHLを室温で安定化させることができると考えられている。

本研究では、IIT-M物理学科のプリタ・デイ(Pritha Dey)博士らにより、フェムト秒(10-15)の過渡吸収分光法(fs-TAS)を用いて、高相関EHL相から生じるバンドギャップ繰り込み(BGR)の時間分解ダイナミクスを測定し明らかにした。EHL相は、光励起された多層MoS2ナノ粒子の超高速緩和において、ピコ秒(10-12)の時間スケールで形成された。EHLによるBGRの実験的証拠が報告されたのはこれが初めてである。

インド工科大学ハイデラバード校(IIT-H)物理学科のサイ・サントシュ・クマール・ラーヴィ(Sai Santosh Kumar Raavi)准教授は、「この中間状態の発見は、技術の汎用プラットフォームとして低次元TMDCを用いた光電子デバイスや量子電子デバイスの実現に影響を与える、不可欠な情報と知識である」と本研究の重要性を述べた。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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