インド工科大学マドラス校(IIT-M)は、ドイツのカイザースラウテルン工科大学と共同で、障害物が存在する場合の群衆の挙動を理解するための流体力学モデルを開発したことを発表した。10月3日付。
群衆行動を理解することは、2022年に韓国のソウルで起きたハロウィーン大混乱のような群衆災害を予測し、防止するための第一歩となる。また、道路を含む都市計画や、ショッピングモール、学校、地下鉄駅などの公共施設を設計する際や、イベントの安全対策を実施する際にも重要だ。社会学者、物理学者、エンジニア、数学者は過去20年間、群衆の行動を研究してきた。
カイザースラウテルン工科大学数学科の研究者とIIT-M数学科、計算数学・データサイエンスセンターの研究者らは、社会的力と行動力に基づいた微視的歩行者モデルをもとに流体力学モデルを数学的に導いた。モデルには歩行者と相互作用する障害物の動きを支配する方程式も組み込まれており、出口や目標に向かって進路をナビゲートしているときに障害物に遭遇した場合の群衆の挙動についても解析できる。
このモデルにより、歩行者の衝突回避行動から、障害物の大きさ、形状、位置、速度が歩行者の流れ、ひいては閉鎖領域からの非難効率にどのような影響を与えるかについての知見が得られた。この知見は安全規制の実施に役立つと考えられる。
また、このモデルは歩行者と車両交通との相互作用の解析や、ソーシャルディスタンスが取られていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのような疾病モデルの解析にも応用可能で、実生活を再現したさまざまな状況に適応可能である。将来的には自律走行車やロボットのナビゲーションにまで応用範囲が広がる可能性がある。
本研究について、ドイツのコブレンツ大学数理研究所のトーマス・ゲッツ(Thomas Goetz)教授は、「ロックコンサートやスポーツ、宗教イベントなどの大規模イベントにおける群衆のダイナミクスを理解することは群衆災害を防ぐための大きな鍵となります。群衆の行動をモデル化し、シミュレーションすることは過去数十年にわたりホットトピックでした。この研究は歩行者の行動に関する微視的モデルを発表し、障害物の周りを流れる群衆の数値シミュレーションを示しました」と評価した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部