2023年11月
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宇宙空間に存在する「多環芳香族窒素置換炭化水素」で新研究 インド

インド工科大学マドラス校(IIT-M)は、同校の研究者らが行った、宇宙空間に存在する多環芳香族窒素置換炭化水素(PANH)による分子形成と分子間クローン崩壊(ICD)と呼ばれる現象の関連について研究を公表した。10月24日付。

1968年にオーストラリアで発見されたマーチソン隕石は、有機化合物を豊富に含んでいたことから、世界で最も研究されている隕石となった。有機化合物の中には宇宙空間に豊富に存在し、複雑な生物分子の前駆体になると考えられているPANHが含まれていた。

IIT-M物理学科のサロージ・バリック(Saroj Barik)博士ら、物理研究所のラジェッシュ・クマール・クシャワハ(Rajesh Kumar Kushawaha)博士、バーバ原子研究センター理論化学部門のY・サジーブ(Y. Sajeev)博士およびインド科学教育研究大学ティルパティ校のラグナート・O・ラマバドラン(Raghunath O. Ramabhadran)博士は、PANHを前駆体とする大きな分子の形成とICDとの関連についての研究を行った。

ICDは光励起された分子が、隣接する分子をイオン化することにより励起状態を緩和するプロセスのことで、通常、結合の弱い系で発生する。研究チームは、ICDが非結合系において周囲の光で発生するかどうかを調べた。その結果、周囲の光によって閾値以下のイオン化が達成されることが分かった。

さらに、最も小さいPANHであるキノリンについての研究を行った。キノリンモノマーを紫外線で励起させると会合しているモノマー間のICDによりキノリンダイマーの陽イオンを形成した。このことは宇宙空間におけるPANHによる分子形成は環境光に誘起されたICDが効率的であることを証明している。また、この機構は反応性の高い不飽和PANHにつながる。これは光駆動プロセスにおいてこれまで知られていなかったチャンネルである。これらの結果は芳香族が宇宙化学のボトムアップ的アプローチに果たす役割についても示唆している。

インドのタタ基礎研究所原子核物理学科のE・クリシュナクマール(E. Krishnakumar)上級教授は「これらの画期的な発見は、宇宙科学と放射線誘発過程の理解に大きな影響を与えうる重要なものだ」と研究の重要性を認めた。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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