2023年12月
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カルノー限界を克服する新たなマイクロ熱機関開発 インド理科大学院

インド理科大学院(IISc)の研究者らが、熱機関の最大効率に関する定理であるカルノー限界を克服する新しいマイクロ熱機関を考案した。11月1日付発表。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。

最大効率で最大パワーを生み出す熱機関の設計は、カルノー限界と呼ばれる理論効率に制限されており、熱の最大利用効率に上限を設定している。IIScとインドのジャワハルラール・ネルー先端科学研究所(JNCASR)の研究者たちは、実験室規模でこの限界を克服する新しいマイクロ熱機関を考案した。

「今日まで不可能と考えられていたことが可能であることが実証されました。高効率と高出力を同時に達成することができるのです」と、IISc物理学科の国家科学講座教授で本研究を率いたアジャイ・K・スード(Ajay K Sood)氏は言う。

熱機関は、例えばピストンを一定方向に動かすなど、熱を仕事に変換する。エンジンが100%効率的であるためには、ピストンが元の状態に戻るという逆のプロセスを行ったときに、熱の無駄がでないことが必須である。これが理論的に可能なのは、プロセスが極めてゆっくりと起こる場合だけで、出力がゼロになり、エンジンが実質的に無意味になることも意味する。これは出力効率トレードオフとして知られており、1970年代からこの現象に対処しようとしてきた。

今回の研究では、研究チームは従来の熱機関の機能をミクロン単位で模倣し、ガスと燃料を混合する代わりに、極小のゲル状コロイドビーズを用い、レーザービームを使ってその動きを制御した。研究チームはまた、急速に変化する電界を使って、エンジンを2つの状態の間で循環させた。この条件下では、放散される廃熱が激減し、効率がカルノーの規定した限界の95%に近づくことがわかった。

「私たちが達成したのは、電界の導入による熱分布時間の短縮です。これにより、エンジンの高効率運転が可能になり、同時に高速運転でも大きな出力が得られるようになりました」と、IISc物理学科博士課程の元学生であるスーディッシュ・クリシュナムルシー(Sudeesh Krishnamurthy)氏は語った。

実験の結果、特定の条件下では、高効率で高出力が得られることがわかった。このような進歩は、将来、よりエネルギー効率の高いデバイスへの道を開く可能性がある。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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