インド理科大学院(IISc)は1月16日、同大学の研究者が卵巣がんは老化した組織で容易に転移することを発見したと発表した。研究内容は学術誌Cellular and Molecular Life Sciencesに掲載された。
卵巣がんは、卵巣の外に広がるまで発見されないことが多く、症状が他の疾患に起因することがあるため危険ながんとして知られている。研究者らは、老化が卵巣がんやその他のがんの広がりを増大させると考えているが、その根本的なメカニズムは完全には解明されていない。
研究者らは化学療法によって誘導されたセネッセンス(細胞の生育の停止)を利用して、この現象を研究した。マウスから体腔の内壁にある組織を取り出し、半分をがん治療に用いる化学療法剤にさらし、細胞をセネッセンス状態に追い込んだ。その上で、マウスの若い組織と老化した組織、ヒト組織様細胞シートの両方に卵巣がん細胞をさらし、タイムラプスイメージングを使って、正常細胞とがん細胞にそれぞれ異なる蛍光マーカーを付け、顕微鏡で長時間観察できるようにした。その結果、がん細胞は老化した組織に定着することを選択し、しかも細胞シートの中で老化した正常細胞の近くに定着することが分かった。
研究者らは、コンピューターモデルを作成し、がん細胞と老化細胞との相互作用を調べたところ、老化した細胞から分泌される細胞外マトリックス(ECM)として定着するタンパク質ががん細胞を引き寄せていた。このコンピューター・シミュレーションの予測を再現するため、ヒトの細胞株での実験も行った。その結果、がん細胞は老化した細胞周囲のECMに強く接着し、最終的には老化した細胞を除去していることが明らかになった。
論文の筆頭著者で米国ヴァンダービルト大学の博士課程に籍を置くバラット・タパ(Bharat Thapa)氏は、がんの進行に対処するため、化学療法薬との併用療法として、老化細胞を死滅させる薬剤を使用する治療が確立されることを期待している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部