2024年03月
トップ  > インド科学技術ニュース> 2024年03月

コブラ科のヘビの毒を中和へ、新たな合成抗体開発 インド

インド理科大学院(IISc)生態科学センター(CEL)の進化ゲノミクスラボ(EVL)と米国のスクリプス研究所の研究者が、コブラ、キングコブラ、クライト、ブラックマンバを含むコブラ科に属するヘビの強力な神経毒を中和できる合成ヒト抗体を開発した。2月22日付発表。研究成果は学術誌Science Translational Medicineに掲載された。

インドやサハラ以南のアフリカでは、毒ヘビにかまれたことによる死者が毎年、何千人にも上る。現在の抗毒素薬の開発戦略は、ウマ科の動物にヘビ毒を注射し、その血液から抗体を採取する。

研究チームは、新しい毒中和抗体を合成するため、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗体のスクリーニングに使用されていた方法を活用した。開発した抗体は、コブラ科に属するヘビが持つエラピッド毒の主要な毒素であるスリー・フィンガー・トキシン(3FTx)に見られる保存領域をターゲットにしている。コブラ科に属するヘビの種類によって3FTxは異なるが、タンパク質中のいくつかの領域は類似している。

研究チームは、ヒト由来の人工抗体の大規模なライブラリーを設計し、酵母の細胞表面に発現させ、抗体が世界中のさまざまな毒ヘビから採取した3FTxに結合する能力をテストした。スクリーニングの結果、さまざまな3FTxに強く結合する抗体が1つに絞られた。その抗体を動物実験でテストしたところ、毒素だけを投与されたマウスは4時間以内に死んだが、毒素と抗体を混ぜたものを投与したマウスは、24時間を過ぎても生存し、健康であった。

さらに研究チームは、低温電子顕微鏡を使って毒素と抗体の複合体の結晶構造を解析し、その結合が筋肉や神経細胞に存在する受容体と毒素の結合に非常に似ていることを発見した。

論文の著者であるIIScのスナガー(Sunagar)氏は、「現段階では、今回の抗体はコブラ科に属する特定のヘビにしか効果がないため、臨床医はこの抗体に頼ることはできません。将来的には、このような合成抗体を数種類組み合わせて、世界各地のほとんどのヘビ毒を中和する万能な抗毒素薬が開発されると考えています。普遍的な製品、あるいは少なくともインド全土で機能する抗体カクテルは将来、ヒト臨床試験に持ち込まれることになると思われます」と話した。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る