2024年11月
トップ  > インド科学技術ニュース> 2024年11月

ドップラー効果強化型量子磁気測定を開発、原子時計の精度向上へ インド

インド科学技術省(MoST)は10月22日、インド科学技術庁(DST)傘下のラマン研究所(RRI)の研究者らが、室温環境下で、リュードベリ電磁誘導透過化(EIT)を用いたドップラー効果強化型量子磁気測定を開発したと発表した。研究成果は学術誌New Journal of Physicsに掲載された。

リュードベリ原子を用いたドップラー効果強化型量子磁気測定観測に使用した実験装置
(出典:PIB)

リュードベリ原子は、電子が非常に高い主量子数を持つ励起状態の原子である。この励起状態の原子は、EITと呼ばれる分光学的手法で測定される。このEITは原子時計や原子磁気センサー、量子計算など様々な応用技術に使われている。

今回、RRIの研究者は、ドップラー効果を活用し、室温環境下でリュードベリEITを用いて、熱ルビジウム原子の量子磁気測定(光と原子の量子性を利用して精密な磁場を測定)を行いながら、磁場に対する応答を10倍高めることに成功した。リュードベリEITは、EITに関与するエネルギー準位の1つとしてリュードベリ準位を持ち、リュードベリEITのシグナルは、外部磁場に対するリュードベリ原子の応答として利用できる。

RRIの博士課程の学生であり、論文の筆頭著者であるショヴァン・カンティ・バリック(Shovan Kanti Barik)氏は、リュードベリEITを用いた磁場測定の原理について、「磁場はエネルギー準位を変えます。磁場が存在すると、エネルギー準位は異なる量だけシフトし、複数の透過ピークが生じます。このピークの分離は磁場の測定に使用できます」と述べた。

RRIのリュードベリ原子ラボ(QuORAL)の量子光学部門の責任者であるサンジュクタ・ロイ(Sanjukta Roy)博士は、「室温状態で行った私たちの実験は、さまざまな実用的な用途に便利に展開できます。これは実験システムが簡素化され、原子冷却や超高真空が不要となったために可能になりました。私たちの結果は、使いやすい室温の装置で微弱な磁場を検出する有望なアプリケーションであることを示しています」と述べ、この研究の成果を強調した。

今回発表されたドップラー効果強化型量子磁気測定は、地球物理学から脳活動や鉱化作用の検出、宇宙探査や考古学に至るまで、幅広い用途に活用できると期待される。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る