2025年01月
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がん転移、微小環境の特徴と細胞の移動パターンの関連を研究 インド

インド理科大学院(IISc)は、がん細胞固有の変異とその周囲環境との相互作用が、がん細胞の移動にどのように関連するかを示す研究を発表した。研究成果は学術誌Biophysical Journalに掲載された。

がんの転移と呼ばれる、原発巣から遠隔臓器への腫瘍の広がりは、長年科学者たちを悩ませてきた。IIScの新しい研究は、がん細胞固有の変異とその周囲環境との相互作用が転移にどう関わるかを調べたものだ。その結果、がん細胞は微小環境と呼ばれる周囲の物理的・生化学的特徴に応じて移動パターンを適応させていることが分かった。

研究者らは多角形のOVCAR-3と防水型のSK-OV-3という2種類の卵巣がん細胞について研究を行った。どちらの細胞も転移し、組織に浸潤する。研究者らはこれらのがん細胞を健康な組織を模した柔らかい表面と病的な組織を模した硬い表面に置くことで、それぞれのタイプが異なる表面上でどのように動くのか観察した。柔らかい表面ではどちらの細胞もランダムな方向にゆっくり動いた。一方で腫瘍周辺の瘢痕化した組織を模した硬い表面では、OVACAR-3がSK−OK-3よりも遊走性が高いことが分かった。また、OVACAR-3は細胞の動きと形が連動しなくなり、直線的ではなく、滑るように動くことも明らかになった。さらに、研究者らはこの動きを定量的に解析することを試みた。

これまで、がん細胞の動きについての定量的な研究方法は、経時的変化を捉えられない数学的アプローチか、機械学習のような複雑なコンピューターベースのアプローチが一般的で、今回の解析への応用は難しかった。そのため研究者らは、シャノンエントロピー(ランダム性を捉える数学的概念)と、これまで使用されてきた動きや形状に基づく指標を組み合わせた、より利用しやすいソフトウェアツールキットを作成した。このキットにより、細胞の経時的な挙動変化を見ることができ、ライブの細胞追跡データに簡単に適用することができ、データを数値的に分析・定量化することができるようになった。

「この研究を発展させ、特に複雑な3D環境におけるこのようながん細胞の集団的動態を解読することを目指しています」と、発生生物学・遺伝学部門の准教授のラムレイ・バット(Ramray Bhat)氏は述べた。

(2024年11月22日付発表)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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