インド理科大学院(IISc)は1月8日、IISc神経科学研究センター(CNS)の研究者らがマウスの慢性疼痛を制御するためのニューロン(神経細胞)の関わりや機能を明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌PAINに掲載された。
化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は化学療法の副作用として知られているが、そのメカニズムは分かっていない。がん患者が低温などの外部刺激に対して過敏になるのはCIPNが原因である。CNSのアルナブ・バリック(Arnab Barik)助教授の研究グループは、CIPNのマウスを使って外側腕傍核(LPBN)と呼ばれる脳領域が、CIPNに重要な役割を果たしていることを明らかにした。
マウスはLPBNニューロンが活性化すると、痛みを伴う寒さの刺激に反応して、頻繁に足を舐めた。LPBNの発火の増加は脊髄から興奮性ニューロンへの入力であり、これらの入力が活性化すると舐める行動が増加することが分かった。さらに、外側視床下部と呼ばれる別の脳領域(主にストレスや空腹感などの感情の制御に関与)からの抑制の入力を活性化させると、寒さで誘発される舐める行動が減り、痛みを伴う感覚も減ることが分かった。
これらの結果から研究グループは、LPBNニューロンが脳のさまざまな領域から受け取る入力の種類や活性に基づいて、マウスが痛みを感じる度合いとそれに対処する方法を制御する、中継地点として機能していることを明らかにした。
バリック氏は「空腹かつ背中に痛みがあるような状況においても、脳は背中の痛みをコントロールしながら食べ物を探しに行くことを可能にします。しかし、激しい痛みの発作が起きて、すべてのニューロンが刺激されてしまうと、食べ物を探しに行くことはできません。脳はそれらの度合いを正確に計算するのです」と説明する。バリック氏によると、このような最善の行動を判断する脳の生得的メカニズムは、LPBN、脊髄、視床下部などの領域が関係しているという。今回の発見は、脳が痛みの反応をどのように認識し、制御するかについて、より包括的な理解に近づくものだ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部