2025年05月
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インドでは薬剤耐性(AMR)菌感染症の多くが未治療であることが判明

インドでは、薬剤耐性(AMR)菌感染症による死亡者が毎年約100万人近くに達するが、その多くが適切な抗生物質を入手できないために未治療となっていることが、グローバル抗菌薬研究開発パートナーシップ(GARDP)の研究者らが主導した新たな研究により明らかになった。科学誌nature indiaが5月1日に伝えた。研究成果は学術誌Lancet Infect Disに掲載された。

今回実施されたのは、低中所得国(LMIC)におけるAMRの治療ギャップを定量化した初めての研究だ。研究チームはLMICの死亡率データと医薬品売上高に基づき分析を行っている。その結果、2019年のインドのデータでは、カルバペネム耐性グラム陰性菌(CRGN)感染症が100万件以上発生したものの、適切な抗生物質投与は8万3468回に留まったと推定した。インドでは2019年にCRGN感染症だけで34万人以上が死亡したとされている。

GARDPのシニアライター兼グローバルアクセスディレクターのジェニファー・コーン(Jennifer Cohn)氏は「抗生物質の過剰使用の危険性については長年議論されてきましたが、インドのような国では、治療不足が確実に人々を死に至らしめているのが現状です。たとえ効果的な抗生物質が存在したとしても、必ずしも商業的に採算が取れるとは限りません。新たなモデル、つまり市場インセンティブよりも公衆衛生への影響を優先するモデルが必要なのです」と語る。インド工科大学デリー校(IIT-D)ヘルスケア・センター・オブ・エクセレンス創設責任者のタヴプリテシュ・セティ(Tavpritesh Sethi)計算生物学科准教授も、この推定値は驚くべきものだと指摘し、「州間の大きな差異を考慮に入れない全国的な推計は、普及率や利用方針の違い、あるいは供給の格差によって混乱を招く可能性があります」と述べた。

研究者らは政府や国際機関がAMRへの対応を抜本的に転換し、人々が治療を受けられるよう保証する必要があると訴えている。解決策の1つとしてHIV分野で成功を収めた95-95-95目標に倣い、感染確認から治療完了までの各段階で達成目標を設定するAMRケアカスケードの導入を提案している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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