インド工科大学マドラス校(IIT-M)は5月14日、IIT-M応用力学部の研究者らが、単層グラフェンで特定の方向に沿った熱伝導が大きくなる現象である熱整流(TR)を実現するための代替手段として、TR比とTR方向を動的に調整できるひずみ勾配を提案したと発表した。研究成果は学術誌Journal of Applied Physicalに掲載された。
半導体材料の熱伝導を制御し調整することは、ナノスケールデバイスの熱管理の向上に不可欠である。熱管理においてTRと呼ばれる現象は非常に有効である。この現象は、材料内の熱伝導は熱輸送の優先方向によって発生する。TRは、フォノニック回路(ナノスケールでの機械的振動やフォノンを操作・制御できるように設計されたシステム)、データストレージ、ナノスケールでの熱管理に利用できるため、科学コミュニティで大きな関心を集めている。
グラフェンは、熱伝導率や電気伝導率の優れた特性により、ナノスケールでの熱管理に理想的な材料である。しかしながら、グラフェンの熱伝導は、欠陥、ひずみ、基底材などの影響を受けるため、これらのパラメーターを慎重に調整し、グラフェンのTRを実現する必要がある。
グラフェンは、非対称構造、パターン欠陥、ドーピング、表面機能化などによりTR現象が現れる。研究者らは、このTRの方向は非対称構造の幅が減少する方向に沿っていることを明らかにした。また、長さと幅が大きくなるとTRが減少した。
一方、正対称グラフェンでは、格子変形によりフォノン(材料内の振動エネルギーの量子)の輸送やフォノン・フォノン散乱に変化が生じる。しかしながら、格子構造が非対称に変形すると、グラフェン間のフォノン特性が変わりTRが発生する。ただ、この非対称変形によるTRの発生要因は明らかになっていない。
本研究では、研究者らが、単層グラフェンでTRを実現するための代替方法として、TR比とTR方向を動的に調整できるひずみ勾配を提案した。さらに、ひずみ勾配下のグラフェンを非対称欠陥グラフェン(ADG)に結合させることによる直列熱整流器を提案した。この提案されたひずみ勾配と直列温度整流器は、実験的に実現可能であることが確かめられた。これらの知見は、ナノスケールでの熱管理を改善するための熱回路の設計に役立つと期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部