国際研究チームは、インドのベンガル湾における過去2万年の堆積物を分析し、モンスーンの極端な変動が海洋の生産性を大幅に低下させていたことを発表した。科学誌nature indiaが6月10日に伝えた。研究成果は、学術誌nature geoscienceに掲載された。
この研究は、インド・マハナディ湾の海底から採取された堆積物コアをもとに行われた。極端な干ばつや豪雨によって、海水の塩分濃度や混合が変化し、栄養塩が表層に届かなくなる「水層の崩壊」が起きたことで、プランクトンの生産性が著しく低下したとされる。
海洋の一次生産を支えるプランクトンは、日光が届く表層で成長するため、深層の栄養塩が上昇してくることが不可欠である。ベンガル湾は通常、ヒマラヤやインド半島の河川からの淡水流入によって形成される成層構造に依存しているが、モンスーンの強弱によりこの構造が大きく変化する。
米国のアリゾナ大学の堆積学者カウスタブ・ティルマライ(Kaustubh Thirumalai)博士は、「淡水の層が厚くなると、栄養豊富な深層水が混ざりにくくなり、プランクトンの成長が阻害されます」と説明する。
研究チームは、異なる水深に生息していた3種の有孔虫(Globigerinoides ruber、Trilobatus sacculifer、Neogloboquadrina dutertrei)の貝殻に残る同位体データを用い、過去の海水の化学組成を再構築した。その結果、2回の大きな生産性低下が明らかになった。1回目は約1万7500~1万5500年前の寒冷期で、2回目は約1万500~9500年前の急激な温暖化期であった。
インド理科大学院の地質学者サンブダ・ミスラ(Sambuddha Misra)博士は、「これまでモンスーン変動の影響に関する見解は分かれていましたが、本研究はその決定的な証拠です」と述べている。共著者であるアーメダバード物理研究所のアルビンド・シン(Arvind Singh)博士は、「現在でも、モンスーンが強い年にはクロロフィル濃度が30%低下するなど、生産性への影響が観測されています」と指摘する。ティルマライ博士は、「気候変動の緩やかな変化でも、ある閾値を超えると突発的な生態系の崩壊を引き起こす可能性があります」と語り、今後の監視の重要性を強調した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部