2025年07月
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腫瘍を可視化する新たな造影分子を開発 インド理科大学院

インド理科大学院(IISc)は6月12日、光音響トモグラフィー用の新たな低侵襲性造影剤を開発したと発表した。研究成果は学術誌JACS Auに掲載された。

腫瘍細胞は健常組織と比べて代謝が活発で、グルコースの消費量が多い。この特性を利用する陽電子放出断層撮影(PET)は、現在の診断技術の標準とされているが、コストが高く、繰り返し使用することで放射線の蓄積が懸念される。IIScの生物工学科の研究チームは、近赤外線(NIR)レーザーを用いた光音響(PA)トモグラフィーに適した新しい分子GPcを開発した。GPcは、亜鉛フタロシアニンを骨格とし、4つの親水性ヒドロキシル基を持つグルコースが結合した構造を持つ。これにより、分子の溶解性と細胞内への取り込み性が高まっている。また、フタロシアニンは、近赤外領域で励起されると、主に非放射過程によってエネルギーを散逸するため、非放射性でありながら、腫瘍部位の代謝活性を可視化できる。GPcは、外部から設計された分子で、従来の造影に利用されてきたヘモグロビンなどの内因性発色団よりも高い感度とコントラストを提供する。研究チームはマウスを用いた実験で、GPcが腫瘍中心部のような低酸素領域にも到達し、3D画像上で明瞭なシグナルを示すことを確認した。

筆頭著者で博士課程学生のプージャ・パトクルカール(Pooja Patkulkar)氏は「GPcがグルコーストランスポーターに取り込まれるか、また細胞内でどのように振る舞うかを評価しました」と説明する。研究チームはGPcとグルコースの競合アッセイを実施し、GPcが代謝されず、トランスポーターGLUT1による取り込みも促進されないことを確認した。また、研究を率いたサンヒタ・シンハライ(Sanhita Sinharay)博士は「構造や分子量は異なりますが、GPcの機能は18F-FDGに非常に近く、驚きました。腫瘍内部の酸素勾配が低い領域にも届くことが証明できたのは大きな成果です」と述べている。

研究チームは、GPcのような分子が非侵襲で低コストな腫瘍検出手法として、特に表在性腫瘍の診断でPETの代替となり得る可能性を指摘している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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