インド科学技術省(MoST)は6月25日、MoST傘下の独立研究機関であるボーズ国立基礎科学研究所の研究者らが、気温上昇や感染症に直面している植物を助けるスマート分子ツールを開発したと発表した。研究成果は学術誌International Journal of Biological Macromoleculesに掲載された。
トマトが過酷な条件下で生き残るのを助けるスマート分子ツール
(出典:PIB)
植物は、極端な天候や微生物の攻撃によってストレスを受けると生産性が低下する。そのため、農家は健康な作物を育てることに苦労する。研究者らは、植物のストレスに対する自己防衛策としてCRISPRに答えを見つけた。
CRISPRは通常、DNAを切断して永続的な変化を引き起こすハサミのような働きをするが、パロブ・クンドゥ(Pallob Kundu)教授の研究チームは、dCas9と呼ばれる改変体を利用した。dCas9はDNAを切断せず、遺伝子のオン・オフを切り替えるスイッチのような役割を果たす。このスイッチは、植物がストレスを受けるまでオフの状態を維持する。
研究者らは、このツールを開発するため、トマトからNACMTF3と呼ばれるタンパク質の小さな断片を借りた。TMドメインと呼ばれるこの部分は、dCas9スイッチを制御室(核)の外部に固定する綱のような役割を果たす。しかしながら、熱などのストレスを受けると、TMドメインは綱の機能をオフにし、TMドメインが制御室に移動し、植物が自身を守るための遺伝子を活性化する。
この研究は、病原体との戦いや高温への対処など、ナス科植物のさまざまなストレスに対して有効である。研究チームは、このツールをトマトやジャガイモ、タバコでテストし、熱波の際に猛威を振るう細菌性病原体Pseudomonas syringaeの攻撃を受けるトマトで効率的に機能することを確認した。研究チームは、植物が必要とするタイミングで、CBP60gやSARD1の防御遺伝子をオンにし、トマトは病気と戦うことができた。さらに、このツールを用いて高温時にのみ、NAC2とHSFA6bの熱ヘルパー遺伝子をオンにした。これらの遺伝子は、高温にもかかわらずトマトを緑色に保ち、水分を保持し、健康の維持に寄与した。
この技術はトマトやジャガイモだけでなく、将来ナスや唐辛子など、私たちが必要とする他の作物にも恩恵をもたらし、スマート農業への道を拓く可能性が期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部