インド工科大学マドラス校(IIT-M)は7月1日、気候変動が農家の移住に与える影響と、それを緩和する地域要因に関する新たな実証研究を発表した。
気候変動はインドの農業に悪影響を及ぼしており、農村部の農家は他の収入源を求めている。選択肢の1つとして、農村から都市部への移住が検討されるが、都市で生き抜くために必要なスキルの欠如は生活水準の低下と貧困につながる。また、農村から都市部への過度な移住は不安定さを招き、インド経済に悪影響を及ぼす。
本研究は、IIT-M人文社会科学部のガウリ・スリークマール(Gauri Sreekumar)博士、サブジ・クマール・マンダル(Subuj Kumar Mandal)教授、およびインド国立法科大学院のアンビクシャ・ドロール(Anviksha Drall)博士により実施されたもので、これまで地区・州レベルにとどまっていた分析を世帯レベルにまで落とし込み、気候変動・収穫量・移住の関係を明らかにしている。
研究は、2010年から2014年にかけて実施された国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)と南アジア村落動態調査(VDSA)の世帯パネルデータ、さらにインド気象局(IMD)のデータを組み合わせて再帰モデルを構築し、インドの8州にある32村の農家の動向を分析した。
その結果、地域における非農業収入源の存在と灌漑インフラの整備が、移住圧力の抑制に有効であることが判明した。このことから、政府は農家の生計多様化のための研修機会の確保に努めるとともに、効率的な技術、水管理技術、そして村落における灌漑インフラシステムの整備にも投資する必要があると強調している。
また、農村地域からの移住を一斉に止めることはできないことを認識し、政策立案者による安全で体系的かつ一貫性のある移住を保証する方法の検討も促している。移住者が移住先で働き、成功するために必要な最低限のスキルを身につけられる訓練の提供も重要であるという。持続可能な農村開発イニシアチブは、教育、医療、通信、金融、不動産といったサービス産業の拡大と農村部の製造業の発展を促進し、移住を削減するためには不可欠であると結論付けている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部