2025年09月
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抗体IgMが物理的に細菌毒素を安定化、新治療法開発の可能性 インド

インド科学技術省(MoST)は8月25日、傘下のS.N.ボーズ国立基礎科学センター(SNBNCBS)の研究者が、人間の最大の抗体であるIgMが細菌毒素を物理的に安定化させ、細胞への害を防ぐ新たな特性を持つことを発表した。

抗体はこれまで「鍵と錠前」の関係にたとえられ、病原体と化学的に結合して無力化すると理解されてきた。しかし今回の研究では、抗体が分子の物理的性質を変える「機械的な調節者」として機能することが明らかになった。この知見は、病原体由来のタンパク質を機械的に硬化させて毒性を抑える新しい治療法の開発につながる可能性がある。

研究チームは、嫌気性菌ファインゴルディア・マグナが分泌するスーパー抗原「プロテインL」に注目した。プロテインLは抗体の軽鎖に結合し、免疫応答をかく乱する性質を持つ。本研究では単一分子力分光法を用い、IgMがプロテインLに作用する様子を観察した。その結果、IgMが結合するとプロテインLの機械的安定性が著しく向上し、外力に対してほどけにくくなることが確認された。この効果はIgMの濃度に依存し、量が多いほど安定化が強まった。

さらにコンピューターシミュレーションにより、IgMが複数の部位で同時に結合することで相乗的な安定化効果をもたらすことも示された。小型の抗体には見られない特性であり、IgM特有の機能であるといえる。研究者らは「血流や免疫細胞の攻撃など体内の物理的環境下で、IgMが毒素を硬化させて毒性を封じ込める仕組みが働いている可能性がある」と説明している。

今回の成果は、抗体の役割に新しい視点を加えるものだ。化学的な結合にとどまらず、分子の機械的特性を変える力を持つ抗体の性質を応用することで、細菌毒素を標的とする革新的な治療法の開発が期待される。

プロテインLと抗体の相互作用 ― 嫌気性菌ファインゴルディア・マグナがスーパー抗原として分泌するプロテインLは、膜貫通領域、Aドメイン、進化的に保存されたBドメインなど複数のドメインから構成される。各BドメインはBリンパ球上の抗体の軽鎖に特異的に結合し、結合界面に分子の張力を生じさせる。この力によりBドメインは生理学的なせん断応力に対して安定化され、細菌の免疫回避を助ける
(出典:PIB)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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