インド科学技術省(MoST)は9月23日、傘下のナノ科学技術研究所(INST)の研究チームが電極や磁石、レーザーを使用せずに脳細胞を刺激できる新しいナノ材料「グラファイト状炭素窒化物(g-C3N4)」を、開発したと発表した。研究成果は学術誌ACS Applied Materials & Interfacesに掲載された。

g-C3N4による神経細胞分化とネットワーク形成の提案メカニズムの模式図。神経細胞は安静膜電位(-90mV)から活動電位(+55mV)へ移行する
(出典:PIB)
本研究では、半導体特性を持つg-C3N4が神経細胞の電気信号に応答し、微小な電場を生じてカルシウムチャネルを開くことで、細胞の成長や成熟、神経ネットワーク形成を促進することを明らかにした。さらに、この材料は培養した脳様細胞でドーパミン産生を高め、パーキンソン病モデル動物において病因タンパク質の蓄積を減少させた。
通常、脳深部刺激療法(DBS)では電極の外科的埋め込みが必要となるほか、磁気や超音波を用いる方法もあるが、いずれも侵襲的または適用範囲が限られている。これに対し、g-C3N4は外部装置を用いずに神経細胞と「自然に対話」し、休止膜電位が負のときにはオン状態となり刺激を与え、正の電位ではオフ状態となる「スマートスイッチ」のように機能する。
研究チームは、Ca2+イメージングや遺伝子発現解析、免疫蛍光法による観察を通じ、このメカニズムを実証した。今回の成果は、神経細胞の活動を外部刺激なしで制御できる半導体ナノ材料の初の実例であり、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患治療法の可能性を示すものである。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部