韓国のカーボン・ニュートラル戦略 ~技術イノベーションへの期待~

2021年7月19日

坪井 務

パク・ミンヒ Park Min-hee
(韓国エネルギー技術研究院 気候変動技術戦略チーム チーム長)

<略歴>

2004年、韓国・慶熙大学校 化学・先進材料科学科卒業、2011年韓国科学技術院(KAIST) 化学研究科修了(博士号取得)。
2011年 サムスンSDI 研究開発センターにてシニア・エンジニア。2012より現職。
水素技術研究開発ロードマップ委員会、カーボン・ニュートラル技術イノベーション委員会のほか、2021年より、国家科学技術諮問会議(PACST) エネルギー・環境専門家委員会で委員を務める。

カーボン・ニュートラルは二酸化炭素(CO2)やメタンなどの温室効果ガスの排出量をゼロにする活動で、石炭火力発電の割合が高く鉄鋼・石油化学・半導体などのエネルギー多消費業種が主力産業である韓国では、「2050カーボン・ニュートラル」は企業と国民に負担を強いる挑戦的な課題である。

その中で、韓国は2020年10月に、「2050年カーボン・ニュートラル」を宣言し、2020年12月、国連機構変動枠組条約(UNFCCC)に提出した長期温室効果ガス低排出開発戦略(Long-term low greenhouse gas Emission Development Strategy:LEDS)においてエネルギーの供給、産業、運輸・交通、建設、廃棄物、農業・畜産・水産部門それぞれのビジョンを提示した。また、部門別に考慮すべき技術開発・手段とその方向性も提案している。

[エネルギー供給部門の2050ビジョン]

まず、太陽光や風力などの再生エネルギーを中心とした電力の供給、燃料電池及びグリーン水素の拡大、CO2の回収・利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization, and Storage : CCUS)技術を導入した石炭火力発電など、低炭素発電源を中心としたエネルギーミックスにより電力部門の温室効果ガスの排出集約度を改善する。電力外部門ではクリーンに生産された電気および水素の活用度を高める。

[産業部門の2050ビジョン]

鉄鋼、セメント、石油化学などの主要業種で新技術や新プロセスを導入する。従来のプロセスにCCUSを連携させてCO2を処理し、エネルギーを大量に消費する設備の効率を改善し、工場のスマート化による省エネルギー化を図る。併せて、廃資源の再使用などによりサーキュラーエコノミー(循環経済)を強化し、工場で使用する化石燃料及び原料を水素やバイオマスなどの環境にやさしい燃料や原料に代替する。最終的には、産業プロセスで使われているフッ素系温室効果ガス(F-gas)の排出を削減する代替ガスを開発する。

[運輸・交通部門の2050ビジョン]

電気自動車と水素自動車のインフラを構築することによりエコカーの普及を拡大し、現在、輸送に使用している化石燃料を代替する低炭素燃料の開発と使用を拡大する。鉄道・航空・海運部門もクリーンなエネルギー源を燃料とし、特に水素を燃料とする多様なモビリティを開発する。同時に、交通需要マネジメント及び車両運行の最適化により運輸・交通部門の温室効果ガスの排出を最小化する。

[建築部門の2050ビジョン]

建物のエネルギー効率の改善のために、従来の建物はグリーンリモデリングを活性化し、新築建造物はゼロエネルギービル技術を積極的に導入する。建物内で使用する冷房・暖房・照明などは高効率な機器を普及し、スマートエネルギー管理システム(Energy Management System:EMS)を活用してエネルギー消費を最小化する。

[廃棄物部門の2050ビジョン]

生産プロセス別の資源の流れを最適化し、廃棄物の発生を根本的に削減するが、やむを得ず発生する廃棄物はできるだけ有用な物質に転換するかエネルギーとして再利用し、それができない廃棄物は、温室効果ガスの排出が少なく低環境負荷の方法で処理する。

[農業・畜産・水産部門の2050ビジョン]

スマートファームやスマート養殖場などのスマート農業への転換や、低メタン飼料の普及など低炭素技術の開発・普及拡大、家畜排せつ物のエネルギー化など、環境負荷の少ないエネルギーを拡大して温室効果ガス排出量の削減に向けた技術・手段を適用する。

韓国の長期温室効果ガス低排出開発戦略(LEDS)で提示された部門別の2050ビジョンを達成しカーボン・ニュートラルを加速化するためには、

  • ➀無炭素電力の生産
  • ➁低炭素燃料への転換
  • ➂発電及び産業プロセスの脱炭素化
  • ➃エネルギー効率の改善
  • ⑤エネルギーシステムの電化
  • ―のプロセスが必要となる。

また、カーボン・ニュートラルの加速化プロセスに関連して、無炭素電力を生産するためには、CO2を排出せずにクリーンで安全なエネルギーを供給する太陽光、風力、水素、バイオエネルギーなどの新エネルギーや再生可能エネルギー技術が主要手段となる。低炭素燃料に転換するためには従来の化石燃料に代わる水素やバイオマスなどの技術が重要であり、発電と産業プロセスの脱炭素化のためには、CCUS技術が主な役割を果たすと考えられる。エネルギー効率を改善させるためには、ICT技術を活用したスマートエネルギー管理システムなどの技術開発が必要であり、エネルギーシステムの電気化のためには大容量のエネルギー貯蔵システムや次世代の送配電システムなどの技術が必要である。

―のプロセスが必要となる。

韓国の長期温室効果ガス低排出開発戦略(LEDS)とカーボン・ニュートラルの加速化プロセスの相関図

韓国はカーボン・ニュートラル社会を実現するために規制の改善、法案作りなどの政策的な努力とともにカーボン・ニュートラルに向けた革新的な技術を確保するために、上記の技術を含めた技術開発ロードマップの樹立などを進めている。技術のイノベーションがカーボン・ニュートラルへの近道を提示し、貢献することができるよう期待する。