若い野党党首に見る韓国の英才教育と留学熱

2021年7月30日

林 幸秀

林 幸秀(はやし ゆきひで):
国際科学技術アナリスト

<学歴>
昭和48年3月 東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻修士課程卒業

<略歴>
平成18年1月 文部科学省文部科学審議官
平成22年9月 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー
平成29年6月 公益財団法人ライフサイエンス振興財団理事長(現職)

はじめに

本年6月、韓国の第一野党である「国民の力」は、議員経験のない36歳の李俊錫(イ・ジュンソク)を代表に選出した。李代表は、1985年に首都ソウルで生まれ、2003年にソウル科学高校を卒業して渡米し、2007年に米国ハーバード大学を卒業している。この略歴が韓国の英才教育などを如実に表しており、韓国の科学技術に重要な役割を果たしていると考えられるため、ここで取り上げたい。

韓国の国情と科学技術

韓国の人口は、約5,100万人と日本のおおよそ2.5分の1である(2021年のIMFデータ)。経済の指標である国際総生産(GDP)で見ると、韓国は約1.6兆ドル(約175兆円)で日本5兆ドルの約3分の1である(IMFデータ)。この様に韓国は、人口や経済規模では典型的な中規模の国家である。

一方、科学技術について韓国は、米国、中国、日本、欧州主要国などの先進国に伍して競争している。例えば、2020年8月に文部科学省科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2020」によれば、2016年から2018年に発表された論文総数で日本が世界全体の第5位であるのに対し韓国は第11位であり、さらに被引用数を考慮して優れた論文数のみで比較するトップ10%論文数では日本が第11位に対して韓国は第14位となっている。国の規模や研究費などを考慮すると、極めて優れていることが分かる。

また同じく昨年9月に公表された世界知的所有権機関(WIPO)や米コーネル大学などによるGII(Global Innovation Index)2020年版のイノベーション・ランキングでは、韓国は世界全体で第10位で、アジア・大洋州諸国の中ではシンガポールの第9位に続いており、我が日本は残念ながら第16位に甘んじている。

高い大学進学率

天然資源に乏しい韓国にとって、人的資源、特に優秀な人材は国家の重要資源と位置付けられている。さらに漢江(ハンガン)の奇跡と呼ばれる高度成長により、国民の大部分が自分の子供を大学に進学させることが出来るようになった。国連教育科学文化機関(UNESCO)の統計によれば、韓国の大学進学率は約95.6%と非常に高く世界トップクラスである。日本は約63.6%と比較するとかなりの差となる。

平準化政策と英才教育

韓国では、1960年代後半に中学校受験戦争が激化し、社会問題に発展した。このため政府は1968年に入試改革を行い、中学校への入学は地域毎での抽選により割り当てる「平準化」と呼ばれる方針を取った。ところが、中学校の平準化により受験熱は高等学校へと移行したため、1974年には、高校進学希望者に対しても中学校と同様に学区ごとで抽選・配分する「平準化」政策を取ることとなった。現在では、高校入学時の生徒選抜方法は地方自治体の裁量となっているが、平準化政策をとる地方自治体が多い。

一方で、平準化政策により高校におけるトップレベル学生のレベルが低下するという問題が生じるようになった。このような背景から、韓国では1980年代より英才教育に取り組み始めることとなる。1983年、科学技術人材育成のために韓国初の科学高校「京畿科学高校」が設立された。2020年時点で、20校の科学高校が指定されいる。

さらに韓国では2000年に、グローバル化・情報化時代に即応した人材を育成するため、「英才教育振興法」が制定され、これに基づき「英才学校」と称する高等学校が、新たに設置されることとなった。2003年に、旧釜山科学高校が英才学校の指定を受け、韓国初の科学英才学校(名称:韓国科学英才学校)が発足した。科学英才学校は現在6校あり、いずれも前述の科学高校から再指定された高校である。

ソウル科学高校

今回野党代表に選ばれた李俊錫氏が卒業したソウル科学高校は、ソウル市チョンノ区にある。1989年に科学高校の一つとして出発し、その後「英才教育振興法」に基づく英才学校として再指定され、現在に至っている。ソウル科学高校は、韓国の中でも最難関の高校と言われており、生徒は皆ずば抜けて高い学力を有している。例えば2019年に、ソウル科学高校からソウル大学校 に合格したものは、総数で56名に上った。

より高いレベルを求めて米国留学へ

李俊錫氏の経歴は、韓国のもう一つの教育事情を示している。それは、外国への留学熱の高さである。

韓国は、日本以上にグローバルな市場で成長してきた企業が多く、学生たちの将来の就職を考えると「英語」は極めて重要な武器であると考えられている。そのため早期からの英語教育や、外国への留学熱となって現れる。

例を米国への留学生の統計で見よう。米国教育文化局(ECA)と国際教育研究所(IIE)による2017年のデータで、米国の大学への世界各国の留学生数ランキングを示したのが次の表である。

順位 国名 留学生数(名)
1 中 国 328,547
2 インド 165,918
3 サウジアラビア 62,187
4 韓 国 61,007
5 カナダ 26,973
6 ベトナム 21,403
7 台湾 21,127
8 ブラジル 19,370
9 日本 19,060
10 メキシコ 16,733

これによれば、韓国は第4位であり、日本の第9位を遥かに凌駕している。人口規模では日本の2.5分の1であるのに対し、韓国は米国への留学生で見ると3倍以上になっているのである。この様な米国への留学生が博士号などを取得し、韓国に帰国して韓国の大学、企業、研究所で働いており、韓国の科学技術のレベルアップにつながっている。

上記の表で示された留学生数では、韓国国内の大学を卒業して大学院課程を米国で修学する例が多いと考えられる。他方、今回話題となった李俊錫氏は、ソウル科学高校を卒業した後、直接米国ハーバード大学に留学している。最近、茨城県立高校の卒業生が現役でハーバード大学に合格したことが日本のマスコミを賑わしたが、李俊錫氏が入学したのははるか18年も前である。

このように、米国との深いつながりも韓国の科学技術進展に今後重要な役割を果たすと考えられる。