基礎研究・イノベーション成長・デジタル転換(DX)を重点強化 2022年度韓国の主要R&D予算

2021年9月8日

林 茂根 (YIM MOOKEUN)

林 茂根 (YIM MOOKEUN):
(韓国研究財団 日本事務所 所長)

<略歴>

1976年韓国ソウル生まれ、韓国 延世大学校卒業、同大学院修了。
2006年韓国学術振興財団(KRF)入り。2009年韓国研究財団(NRF)に改組。
2020年11月から韓国研究財団 日本事務所長に就任。

韓国政府は6月末に、2022年度の主要R&D予算の配分及び重点投資分野を確定・発表した。科学技術情報通信部・科学技術イノベーション本部は、国家科学技術審問会議の審議会により2022年度の主要R&D予算を確定し、確定された金額は今年度(22兆5千億ウォン=約2兆1千億円)より4.6%増加した23兆5千億ウォン規模である。人文・社会分野の一般R&Dを含めれば29兆ウォンほどであると推算されている。2019年度の国のR&D予算が20兆ウォンを超えてから3年で30兆ウォン近くに増加した。参考として韓国は今年、政府・民間を合わせた全R&D投資規模が100兆ウォンを超え、これはアメリカ、中国、日本、ドイツに続き世界で5番目の規模である。

(参考1. 最近5年間の韓国の主要・一般R&D予算額の推移、単位:億ウォン)
区分 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
国の全R&D 196,681 205,328 242,195 274,006 287,706(推定)
主要R&D 146,977 164,728 197,314 224,894 235,082
一般R&D 49,704 40,600 44,881 49,112 52,624(推定)

政府で審議・議決した2022年度の主要R&D予算の配分の基本的な方針を見ると、次の通りである。

第1は、ムン・ジェイン(Moon Jae-in)政権の「回復」、「跳躍」及び「包容」という国政運営の方針と歩調を合わせて、主要な国政課題を支障なく完遂できるよう支援し、科学技術のイノベーティブな成果を創出する。具体的には経済の回復、先導国として跳躍するための研究者中心の基礎研究、イノベーションによる成長、デジタル転換(デジタル・トランスフォーメーション:DX) を重点的に支援し、カーボンニュートラルに先駆的に投資し、科学技術による社会問題の解決と地域・中小企業のイノベーション、若い科学者の支援など、包容的価値の実現を支援し、国民の暮らしの質を向上させることである。

第2は、グローバルな技術覇権競争に対応し、量子や6Gなどの戦略技術分野の独自技術の確保およびコア人材の養成を支援し、国際共同研究を強化することである。

第3は、R&D投資のイノベーションのために省庁間及び民・軍協業事業に対する投資を拡大し、イノベーション調達と連携したR&D、優れた成果を引き継ぐなど、研究開発成果の拡散を強化することである。

このような3つの基本方針をもとに、2022年度の主要R&Dの重点投資分野をまとめてみると、次の通りである。

  • 「危機への対応及び経済の回復」を目標として、感染症への対応能力の強化に今年より11.5%増加した4,811億ウォン
  • バイオヘルス・未来の自動車・システム半導体を、イノベーション成長の3大コア(BIG3)分野に定め、今年よりも9.1%増加した2.48兆ウォン
  • D(Data).N(Network).A(AI)基盤のデジタル転換の促進に今年よりも44.8%増加した1.54兆ウォン
  • 昨年からの日韓貿易摩擦をきっかけとして重点的に育成し始めた素材・部品・装備産業の競争力の強化に今年よりも6.3%増加した2.24兆ウォン

(参考2. 2022年のイノベーション成長3大コア産業及び主要事業の例)

また、「科学技術先導国としての跳躍」を目標として、韓国が脆弱であると評価されている基礎研究に今年よりも7.3%増加した2.52兆ウォンを投資し、関連人材の養成にも5,132億ウォンを投資する計画である。先端科学技術分野のコア独自技術を確保するために、宇宙分野に11.2%増加した4,019億ウォンを、量子・6G・AIなどの次世代のICT分野に151.5%増加した1,238億ウォンを投入する計画である。

一方、2050年のカーボンニュートラルのための技術イノベーションへの支援で、エネルギーの生産・加工・流通・消費、資源循環システムの構築などに20.9%増加した1.89兆ウォンを支援する計画である。

最後に、「包容的なイノベーションによる暮らしの質の向上」を目標として、地域の主力産業の育成による地域イノベーション能力の強化に9,400億ウォンを、中小企業のイノベーション能力の強化のために、中小・ベンチャー企業の持続成長と新産業分野の有望企業のイノベーションなどに、今年よりも1.7%増加した2.46兆ウォンを支援し、若い科学者の安定した研究環境を造成するために、今年よりも13.4%増加した4,111億ウォンを投資する計画である。また、国民の安全、微小粒子状物質(PM2.5)・生活環境、社会問題解決のためのR&Dなど、科学技術による社会問題解決分野に2.87兆ウォン規模を投入する予定である。

今回の審議会を経て確定した予算は、近く国会に提出される予定である。新型コロナウイルスのパンデミックによりグローバル経済が不確実な状況が続いているが、韓国政府は未来の新市場の獲得を優先課題として掲げており、量子、AI、6Gなどの先端科学技術分野を中心として技術覇権競争が激しくなる状況の中で、有望な新技術の確保と国レベルでのグローバル技術協力システムの構築に力を注ぐ方針である。

(参考3. 2022年度の韓国の主要R&D投資の概要)

(参考4. 2022年度の韓国の政府機関別のR&D予算額、単位:億ウォン)
区分 2021年の予算 2022年の予算(案) 前年度との増減
金額 %
R&D総額 224,677 235,082 10,405 4.6
科学技術情報通信部 85,166 87,807 2,641 3.1
産業通商資源部 48,609 51,198 2,589 5.3
防衛事業庁 28,173 27,387 -785 -2.8
中小ベンチャー企業部 16,613 17,498 884 5.3
海洋水産部 7,137 7,491 354 5
教育部 5,587 5,196 -391 -7
農村振興庁 5,978 6,459 481 8
国土交通部 5,871 5,922 51 0.9
保健福祉部 6,816 6,780 -36 -0.5
環境部 3,636 3,822 185 5.1
農林水産食品部 2,545 2,582 37 1.5
山林庁 1,252 1,378 126 10.1
食品医薬品安全処 1,136 1,273 137 12.1
疾病管理庁 1,062 1,299 237 22.3
気象庁 873 933 61 6.9
原子力安全委員会 1,108 1,061 -47 -4.3
文化体育観光部 1,040 1,106 66 6.3
行政安全部 933 1,038 105 11.2
警察庁 492 581 88 17.9
海洋警察庁 261 458 197 75.6
消防庁 207 225 18 8.8
文化財庁 79 115 36 46
国防部 49 49 0 0
関税庁 30 44 14 47.2
法務部 24 26 2 8.4
個人情報保護委員会 30 30 100
企画評価費   3,326*    

※ 四捨五入などで予算の総額に差があることがある 企画評価費は前年比の増減から除く

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