2021年9月15日
鄭桐旭 (Jerng Dong-Wook):
韓国中央大学校エネルギーシステム工学部教授
<略歴>
1992年、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科修了(博士)。
2012年から韓国中央大学校教授(現職)。
国家科学技術会議エネルギー/環境委員会座長、韓国原子力安全財団審議会メンバー、韓国研究財団 原子力技術部門長、水力原子力公社中央研究所主任研究員等を歴任。
世界的に小型モジュール炉に対する関心が非常に高い。
アメリカでは、ニュースケール(NuScale)の原発が2020年8月にアメリカ原子力安全規制委員会の標準設計認可の審査を終え、初号機建設のための投資者を募集している。アイダホ国立研究所の敷地に建設し、2020年代中に電力の生産を行う目標である。
中国では、125MW(1MW=1000kW)の多目的小型原発であるACP100を2025年に竣工することを目標として建設中である。
ロシアでは、砕氷船用原子炉を改良した55MW級の小型原発を、極東アジア・シベリアの開発に活用するために建設を推進中である。ガス冷却炉であるコールダーホール原子炉を開発しイギリスでは、ガス冷却炉の寿命が尽きたため、大型軽水炉は海外から導入するが、小型原発は自国の技術で建設しようとしている。これは原子力潜水艦の動力炉を製作するロールス・ロイスが中心となって開発中である。
カナダでは、広い国土に電力を供給する小型原発に高い関心を持っている。独自に小型モジュール炉の開発も行うが、小型原発の開発における安全性審査のリスクを減らすために、カナダ原子力規制機関は海外の開発者の設計についてもコンサルティングしている。軽水炉のみならず溶融塩原子炉など10基以上の小型原子炉についてもコンサルティング中である。
韓国では、既に100MW級の小型多目的原子炉であるSMARTを開発した。2012年に韓国原子力安全委員会から標準設計の認可を受けるなど安全性の検証を終え、サウジアラビアと共に建設前の予備設計を行った。SMARTは原子炉、蒸気発生器、加圧器などがひとつの容器の中に内蔵された一体型原子炉で、従来の加圧水型原子炉の最大のリスクであった冷却材喪失事故を避けられる特徴がある。韓国はSMART原子炉技術をもとに、いくつかの原子炉をひとつの原発として構成するシステムモジュールの概念を導入し、原子炉の制御を単純化するなど革新性を強化した小型モジュール炉を開発し、標準設計認可を取得しようという計画を検討している。SMARTは電力の生産と共に海水淡水化のような特殊目的での利用に焦点を当てたとすれば、新しく計画している小型モジュール炉は原子炉の制御の単純化、負荷追従運転能力の向上など、再生エネルギーとの調和により重点を置こうとしている。
小型モジュール炉が脚光を浴びる理由は、次のような要因がある。
第1に、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)により原子力の役割が浮上すると見通されているからである。国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、2050年のカーボンニュートラルのためには原子力の役割が必須で、現在の年間7GW(1GW=1000MW)規模の原発の建設が2030年代以降には3倍以上に増加しなければならないという。これは、現在の400GW規模の原発産業が2倍以上に増加するであろうということを意味する。原発の規模が大きくなっても全体的な安全性を保ち、また増加させるには、大型原発に比べ安全性に優れた小型原発に注目するしかない。イギリスでは、2030年代の世界の小型モジュール炉(SMR)の需要を65~85GWと予測している。
第2に、電力の需要への対応に柔軟であるからである。小型モジュール炉は電力の需要により原子炉のモジュール数を調整することにより、設計全般を変えなくても需要者に必要な原発を提供することができる。従来の大型原発に比べ、より広い市場をターゲットにすることができるはずである。また、カーボンニュートラルにより火力発電の代替の必要性が浮上した。ほとんどの火力発電所は500MW以下であるため、火力発電の代替として小型モジュール炉が有利である。
第3に、再生可能エネルギーの変動性に対応する運転の弾力性である。再生可能エネルギーはカーボンニュートラルの核心エネルギー源である。しかし、再生可能エネルギーの間欠性の問題は不可避である。これを解決するために伝統的にガス発電が利用されたが、カーボンニュートラルのためにガス発電は使用できない。小型モジュール炉はいくつかの小型原子炉をまとめて需要の変化に対応し、小さな原子炉なので運転が容易である。再生エネルギーの間欠性を補完するには、大型原発に比べ適合する。
小型モジュール炉には様々なメリットがあるにもかかわらず、まだ市場に参入できずにいるのは経済性のためである。小型モジュール炉は、遠隔地への電力供給や海水淡水化など特殊目的を念頭に置いて開発したケースが多い。電力市場よりはニッチ市場をターゲットにしたのである。小型モジュール炉が真価を発揮するには電力市場が受け入れなければならず、そのためには大型原発と競うことができる経済性が必要である。小型モジュール炉は規模の代わりに単純化、工場での製造、モジュール化技術の開発などにより競争力を確保しなければならない。最初のプロジェクトが市場により検証されれば需要が急増する、いわゆるバンドワゴン効果が生じ得る。小型モジュール炉市場は、2030年代の初期に市場が開拓されることが予想される。これが、いくつかの先進国が小型モジュール炉の開発を急いでいる理由である。
カーボンニュートラルを達成させる近道は、電気の利用拡大と無炭素電気の生産である。無炭素エネルギー源として最も効果的で可用なのは、再生可能エネルギーと原子力だけである。再生可能エネルギーに間欠性という弱点があるならば、原子力には大衆の受容性が低いという弱点がある。小型モジュール炉は安全性をアピールして大衆への受容性を高め、運転の弾力性により再生エネルギーの弱点を補完することができる。これが、2030年代の小型モジュール炉市場が期待される理由である。