伝統医薬、現代科学として発展 韓医学の最新動向解説

2021年10月07日

黄 晩起(Hwang Man Ki)

黄 晩起(Hwang Man Ki):
大韓韓医師協会副会長(韓医学博士、韓医師)

<略歴>

2000年、韓国 慶熙大学校韓医科大学卒業、2006年同大学校東西医学大学院卒業(韓医学博士)。
2021年から大韓韓医師協会副会長、2020年から西江大学校教授(現職)。
アイヌリ韓医院全国ネットワーク設立者兼代表院長、健康保険審査評価院診療審査評価委員会 非常勤審査委員を務める。

R&Dへの投資拡大

朝鮮戦争さなかの1951年9月25日、臨時首都が置かれた釜山で韓医師制度を正式に法制化した「国民医療法」が公布されて初めて韓国における韓医師制度が始まった。実質的に韓国政府が韓医学に関連する政策を体系的に推進し始めたのは1993年からである。

韓医学分野に対する韓国政府の研究開発(R&D)への投資は、1994年の「韓国韓医学研究院」の設立を皮切りに、1997年の保健福祉部の韓医学発展研究事業(現・韓医薬先導技術開発事業)以降に本格的に拡大された。2019年を基準とする韓国政府の韓医学のR&D総額は約1,106億ウォンで、韓国政府のR&D総予算の0.54%、保健医療分野のR&D総予算の6.22%レベルである。科学技術情報通信部は韓国韓医学研究院の主務部署で、2019年に科学技術情報通信部が推進した研究開発事業の韓医学に関する主な予算は、韓国韓医学研究院の研究運営費の支援予算で、これを基盤として韓医学の科学化・標準化・基礎ジェネリックテクノロジーなどの基盤技術の開発事業などが行われた。その他、科学技術情報通信部のバイオ医療技術開発事業、個人基礎研究&集団研究の支援事業などでも韓医薬に関する研究事業が実施された。

年度別の韓国韓医学研究院の研究成果

(単位: 編、件)

韓国韓医学研究院の内部資料
区分 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
論文 SCI(E) 107 154 193 166 192 191 202 237 117 117
非SCI 166 169 180 157 134 97 113 109 206 169
特許 出願(国内/国外 PCTを含む) 61
(48/13)
72
(54/18)
86
(54/32)
84
(56/28)
84
(55/29)
114
(79/35)
101
(77/24)
140
(92/48)
134
(81/53)
78
(40/38)
登録(国内/国外) 21
(20/1)
39
(36/3)
37
(35/2)
50
(43/7)
67
(52/15)
67
(45/22)
60
(45/15)
79
(69/10)
75
(68/7)
70
(61/9)

国際研究を積極展開

韓国韓医学研究院は毎年、世界の優れた研究機関と共に様々な国際研究の交流・協力活動を展開している。2018年にベトナムの国立伝統医学病院に新たに設立した「KIOM-NHTM共同研究センター」を通じて、翌2019年からベトナムで韓医学臨床研究を開始した。中国中医科学院の研究チームおよび傘下の病院とは、認知症・体質医学・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)・アトピー性皮膚炎の4つの新規共同研究を行った。また、韓国韓医学研究院の基盤造成型国際共同研究プログラム(Global Aプログラム)を活用し、オーストラリア、中国、スペイン、ベトナムの新規協力機関や企業と共同研究するための基盤を構築した。その他にも、米国のマイアミ州立大学、コロンビア大学、ハーバード大学などの優れた大学との臨床研究を持続的に行い、毎年優れた研究成果を導き出している。

法的基盤を整備

人口の高齢化に伴う慢性・難治性疾患の増加などの影響で、伝統医薬に対する世界的な関心と需要が爆発的に増大している。世界の伝統医学および補完代替医学市場の規模が成長し続けている状況に歩調を合わせ、韓国政府も伝統医薬育成の必要性を認識し、2003年8月に「韓医薬育成法」を制定した。同法の制定により、韓医薬の技術発展のための総合的な施策を推進し、韓医学産業の活性化基盤を構築する独自の法体系が整えられた。5年ごとに韓医薬の育成・発展のための総合計画を政府次元で樹立するよう規定し、韓医学の先進化・韓薬管理の強化・韓医薬の産業化・韓医学のR&Dを革新する大きな枠組みが提示された。

また、2011年7月14日に「韓医薬育成法」が改正され、「韓医学」について「韓医学を基礎とした韓方医療行為と、これを基礎として科学的に応用・開発した韓方医療行為」と定義したことにより、韓医薬が現代科学として大きく発展することができる法的基盤を築いた。

第3次韓医薬育成発展総合計画の成果目標別の推進課題

保健福祉部 内部資料
成果目標 推進課題 細部課題
Ⅰ.韓医標準臨床診療指針の
開発·普及による根拠の
強化及び信頼度向上
1. 韓医標準臨床診療指針の開発 1-1.韓医標準臨床診療指針の開発
1-2. 韓医標準臨床診療指針の開発のための臨床研究の支援
2. 韓医標準臨床診療指針の普及·拡散 2-1. 韓医標準臨床診療指針の拡散
2-2. 韓医標準臨床診療指針の支援体系の構築
Ⅱ.保障性強化及び公共医療
の拡大による韓医薬の
アクセシビリティの向上
3. 韓医薬の保障性の強化 3-1. 韓医薬の保険給与制度の改善
3-2. 洋·韓方協力診療の活性化
4. 韓医薬の公共保健医療の強化 4-1. 韓医薬の公共保健医療の強化
Ⅲ. 技術革新と融合による
韓医薬産業の育成
5. 韓薬(材)の品質管理及び流通 体系の強化 5-1. 韓薬資源の生産·保管·管理体系の構築
5-2. 韓薬(材)の製造·流通管理体系の先進化
6. 技術革新による韓医薬商品の支援 6-1. 韓薬材の開発及び特化の支援
6-2. 韓薬材活性化の基盤づくり
7. 韓医薬のR&Dの支援 7-1. 韓医薬のR&Dの支援強化
7-2. 韓薬材を基盤とした製品の開発及び支援
Ⅳ. 先進インフラの構築
及び国際競争力の強化
8. 韓医薬の発展のためのインフラ整備 8-1. 韓医人材の専門性強化
8-2. 韓医薬の知識情報化及び国家資源化
8-3. 韓国韓医薬振興院の政策支援の強化
9. 韓医薬の国際競争力の強化 9-1. 韓医人材の国際交流及び韓医薬のグローバル化の活性化を支援
9-2. 韓医の国際標準化基盤の構築

教育の標準化図る

2018年には法律が改正され、従来の韓医薬育成発展審議委員会と韓方産業育成協議会を、韓医薬育成発展審議委員会として統廃合することで、政策的により包括性と効率性を向上させた。2019年6月には従来の「韓薬振興財団」を「韓国韓医薬振興院」として新たに拡大・改編することにより、韓医薬育成発展総合計画の樹立支援、韓医薬に関する国内外の共同協力および国際競争力の強化、韓医薬技術の科学化と産業化の支援など業務の範囲が拡張された。

「韓国韓医薬振興院」は、「韓医薬の育成のための基盤づくりと韓医薬の技術開発および産業振興を通じて国民の健康増進と国の経済発展に寄与する」ことを目的とする韓国唯一の韓医薬産業振興機関である。「韓国韓医薬振興院」では、国産の韓薬材を栽培・保存・流通して韓医薬の安全性・有効性の検証、韓医薬の公共インフラの構築、韓医薬の政策の開発、韓薬製剤の現代化及び産業化、韓医新薬の開発、韓医の医療機器の開発、韓医標準臨床診療指針の開発、韓薬製剤の品目許可及び保障性の強化、韓医薬のグローバル化などの業務を推進している。

公共韓医保健政策分野では、1996年に「韓薬規格化制度」が導入され、2005年からは「韓医流通実名制」が施行され、2007年には韓薬規格品の使用が「義務化」された。1998年に「公衆保健韓医師」が配置され、保健所と保健支所で専門的な韓医診療と専門的な韓医保健事業が行われるようになった。1999年には8つの専門診療科目(韓方内科、韓方婦人科、韓方小児科、韓方神経精神科、四象体質医学科、鍼灸科、韓方リハビリ医学科、韓方眼耳鼻咽喉皮膚科)に基づき、韓方医専門医制度が導入された。

2005年に韓国韓医学教育評価院が設立され、韓医学の教育の標準化と質的水準の向上を図り、同年には韓医公共保健ハブ(HUB)保健所支援事業が導入され、様々な韓医保健事業が活性化している。2013年に保健所の健康増進事業の統合が推進され、韓医薬公共保健事業も地域社会の健康増進事業として運営されている。また、2021年8月30日から「保健福祉部」と「健康保険審査評価院」の主管で韓医訪問診療が活性化され、身体の不自由な在宅患者のための医療アクセスを向上させ、多様かつ十分な医療サービスを提供するための基盤の拡大を目的とする「一次医療韓医訪問診療報酬モデル事業」が実施された。すなわち、身体が不自由で医療機関への来院が困難であると韓医師が判断した患者を対象に、地域内の一次医療を担当している韓医院に所属する韓医師が直接訪問診療(往診)し、その患者に韓方医療サービス(診察、韓薬製剤などの処方、鍼術を含む疾患管理、検査、依頼、患者及び保護者向けの教育、相談)を提供する事業である。

保健福祉部の主な韓医薬政策の変化

保健福祉部 内部資料
1993-2002 2003-2010 2011-2019
組織 1993年 韓方医療担当官を設置、1996年 韓方政策官に拡大改編、
2008年 韓医薬政策課と韓医薬産業課に改編
人材 韓医師 1994年 制度導入、続けて施行
専門医 1999年 制度導入、続けて施行
公共保健 診療事業 1998年 公衆保健韓医師を配置、2001年 韓方地域保健モデル事業、
2002年 本事業の拡大継続
健康増進事業 2005年
HUB保健所事業の導入
2013年
HUB保健所事業を統合健康増進事業に統合
国際交流 韓中協力 1996年 開始、持続
海外医療奉仕 1993年 開始、持続
韓薬 規格化 1996年
規格化制度を導入
2007年
使用を義務化
需給の調整 1998年
需給調節制度を導入
流通制度 2005年
流通実名制を開始
2012年
規格品の流通を義務化
韓方産業 研究開発 1998年
韓方治療技術研究開発事業(1998~2010)
5ヵ年計画(2006~2010)
組織の整備 1994年 韓国韓医学研究院 2005年 韓方産業チーム 2016年
韓国韓医薬振興院
法令の整備 2003年
韓医薬 育成法を制定(2003) 第1次韓医薬育成発展 総合計画(2006~2010)
2018年
韓医薬育成法を改正
(韓方産業育成協議会の統併合、韓国韓医薬振興院の名称 及び業務を整備)
第2次韓医薬育成発展
総合計画(2011~2015)
第3次韓医薬育成発展
総合計画(2016~2000)
教育 全国に韓医科大学を11校設立 (1947~1992) 2005年
韓国韓医学教育評価院を設立
2008年 国立韓医学専門学校を開設保健福祉部
内部資料
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