アジアの科学の先駆者たち: 海洋バイオ素材を医薬・健康製品に変革するキム教授

病気や老化の流れを変えるため、キム・ソクォン教授 (Professor Kim Se-Kwon) は、海洋バイオマテリアルを新しい化粧品、栄養補助食品、医薬品に変革している。

AsianScientist - 海は地球の70%以上を占めているにもかかわらず、そのほとんどは未だに探索されていない。しかし、たどりつけるところがごくわずかであっても、海は人類に栄養と資源を提供し続けている。

例えば、海藻から作られるカラギナンやアルギンは、歯磨き粉から肥料にいたるまであらゆるものに使用されている。世界海洋デーを記念して、今回は、海がもたらす無数の恩恵と、海洋素材を救命製品に一変させている革新者たちに焦点を当てる。

韓国・漢陽大学校のキム・ソクォン(Kim Se-Kwon)教授 は、海の素材を健康に役立てることに力を注いでいる。 例えば、骨や歯を丈夫にするために、魚の腸や骨から抽出した吸収しやすい水溶性のカルシウムを開発した。

釜慶大学校の主任教授や海洋バイオプロセスリサーチセンター (MBPRC) の所長として40年にわたり海洋バイオテクノロジーに取り組んできたキム教授は、550本以上の研究論文を執筆し、140件の特許を保有し、50冊以上の書籍を執筆、編集してきた。その内容は、海洋生物を価値あるバイオマテリアルに精製することから、育毛剤や肝臓用の健康補助食品といった多様な製品を開発することまで多岐に及ぶ。

アジアンサイエンティストの取材に対し、キム教授は、研究の裏側にある原動力と海洋バイオテクノロジーの未来に対する期待を語った。

1. 海洋バイオテクノロジーに興味を持ったきっかけを教えてください。

朝鮮半島の南部は海洋に囲まれ、海洋資源が豊富です。これらの海洋資源は、甲殻類、藻類、魚類で構成されていますが、十分に活用されていません。私が海洋生物に惹かれたのは、そのユニークな化合物が、陸上生物からは得ることができないものだったからです。

海洋資源をどう人類に生かせるかを突き止めたいと思い、海洋生物化学の研究室を立ち上げて、海洋の大型藻類や微細藻類、魚類を原料とする市販製品の研究開発を始めました。この40年間、価値ある製品や、新しいバイオマテリアルの開発、海洋由来製品の活用方法の解明に取り組んできました。

2. 海洋生物がさまざまな医薬品、栄養補助食品、化粧品の用途に適しているのはなぜですか?

海洋動物は、塩分濃度が高く、酸素濃度が低く、圧力が高いという過酷な環境で生きています。彼らにはユニークな代謝と生理のプロセスがあり、それによって潜在的な生理活性代謝体が生成されると考えられています。

地球表面の約70%は水に覆われ、全生物の約80%は海に生息しているにもかかわらず、商品開発のために海洋で行われる研究活動は限られています。私はこれまで、海洋バイオマテリアルから、抗がん剤、抗炎症剤、抗糖尿病薬、抗HIV(エイズウイルス)薬、抗酸化剤、勃起不全薬、育毛剤などを開発してきました。

海洋資源から有効成分を分離するために、Rotavaporシステムを使用するキム教授 (写真提供:本人)

3. これまでに開発された代表的な製品についてお聞かせください。

病気を治療するための生理活性成分を求めて、さまざまな海洋バイオリソースを研究しています。海洋資源の中には、いくつかの貴重な生理活性成分がタンパク質、多糖類、脂質などの形で存在していますが、まだ十分に活用されていません。こうした成分をバイオリソースに転換するために、バイオプロセスやバイオコンバージョンの技術を利用しています。

一般的なバイオリソースの一例として、甲殻類の殻から採取されるキトオリゴ糖(COS)が挙げられます。これは、通常は人間が食べることはありません。一般的に、COSは化学的または酵素的な方法で製造されます。化学的方法では、微量の有害な副生成物が発生するため健康上の問題が生じる可能性があります。一方、酵素的方法は、コストが高く、大量生産が難しく、一貫性に欠ける可能性があります。

こうした懸念に対処するため、私は、膜バイオリアクターシステムを使って分子量の異なるCOSを生成できる、酵素を用いた初めての連続的なCOS生産システムを開発しました。

このシステムを使うと、抗がん剤、抗酸化剤、抗高血圧、抗認知症活性ほか、さまざまな生物学的活性を持つ比較的小さな分子量のCOSを製造することができます。私は、この技術を企業に譲渡し、商業用途向けに産業規模で大量生産することを目指しています。

また、紫外線遮断薬、シワ改善薬、美白製品、育毛剤など、海藻からさまざまな種類の薬用化粧品を開発しました。

キム教授は550本の研究論文や、海洋バイオテクノロジーの百科事典を含む50冊以上の本を執筆 (写真提供:本人)

4. 現在取り組んでいるエキサイティングなプロジェクトについて教えてください。

ライフスタイルや食生活の変化、公害などにより、多くの人々が健康を害しています。病気治療に対する私の考えは「予防は治療に勝る」です。海洋生物から得られる多くの有効な生物学的物質は、健康を利するだけでなく、副作用がなく有害な病気から身を守ります。

最近は、海藻や甲殻類に含まれる海洋性多糖類を、化粧品、創傷被覆、薬物送達、さらには再生医療にどう応用できるかを研究しています。また、現在、病気の予防と制御におけるCOSの可能性を詳しく説明する本を編集中です。

5. 研究者を目指すアジアの若者にアドバイスをお願いします。

私は学生たちにいつも、困難に直面したときにモチベーションを高めてくれるお気に入りのことわざや格言を掲げておくように言っています。計画が台無しになったり失敗したりすることがあるかもしれませんが、自分の選んだ格言から勇気を引き出して、決意を新たにすることができます。

成功を手に入れたいと思ったら、情熱と痛みを持って取り組まねばなりません。痛みなくして得るものはありません。勉強や仕事、研究で目標を達成しようとするときは、集中しながら作業を楽しむ必要があります。世界は競争と技術の向上に満ちあふれています。情熱を持って研究することで、イノベーションを育む努力をしなければなりません。

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