2021年11月12日
李秀俊(Lee SooJoon):
慶熙大学校数学科教授
<略歴>
2002年ソウル大学校数理科学部修了、量子計算アルゴリズムにより博士号を取得。ソウル大学校複雑系統計研究センター研究員、高等科学院計算科学部研究員を経て、2004年9月から慶熙大学校数学科教授として在職。韓国数学会暗号学分科委員、韓国暗号フォーラム量子暗号分科会主査、量子情報科学技術学会アドバイザリー委員を歴任し、現在、韓国研究財団(NRF)レビューボードメンバー、量子コンピュータスタートアップ「QuNova Computing」科学技術アドバイザリーボードメンバー、量子情報科学技術学会「量子コンピューティング技術白書」編纂委員長などとして活動している。
1990年代後半、少数の数学者と物理学者によって始まって以降、最近まで散発的に行われてきた韓国の量子コンピューティング研究は、2019年以降、韓国政府による比較的大きな規模の研究投資と支援によって、以前とは異なる方向に統合的な発展を遂げている。
量子コンピューティングに対する融合研究エコシステム形成のための「国際協力ネットワーク」事業を皮切りに、韓国科学技術情報通信部は、量子コンピューティングハードウェアに対する「量子コンピューティングコア技術開発」と理論中心の「有望基盤技術開発」事業を通して、2019年から5年間、量子コンピューティングの基盤となる基礎的なコア技術が多数の国内研究陣により確保できるように誘導している。これと同時に「量子情報科学研究開発エコシステム形成事業」を進め、量子コンピューティングを含む量子情報科学全般に対する人的及び物的基盤の形成を積極的に支援することにより、量子コンピューティング研究開発事業が成功するように努めている。
参考サイト(外部サイト):韓国研究財団 https://www.nrf.re.kr/ 参照
これらの事業の進展状況は、以下のとおりである。
科学および工学などにおいて、量子コンピューティング融合研究エコシステムを形成するために、大きく次の2つの目標のもと事業が進められている。
量子コンピューティング分野の国内外の専門家を招いて「International Conference on Quantum Computing」という名称の国際学術大会を2019年から毎年開催、2019年4月から国内研究陣による学術セミナーの定期ワークショップを12回開催(2021年10月時点)、量子コンピューティング研究への参入を希望する学生と若手研究者のための量子コンピューティングサマースクールも一緒に実施し、関連専門人材の養成に努めている。
参考サイト(外部サイト):量子情報科学技術研究会 https://quist.or.kr/ 参照
ICQC2019の案内文
多様な意味で、散発的に使われている量子コンピューティング関連用語と概念、技術体系を整理して、「量子コンピューティング技術白書」を毎年発行し、これをWiki文書としてインターネット上に公開し管理する作業を進めている。
この事業の総研究期間は5(3+2)年で、第一段階(3年)を支援した後、最も優れた1つの研究チームに限って第二段階(2年)を支援する競争型R&D制度となっており、大きく次の2つのプログラムを行っている。
2023年までに5キュービット級以上の汎用量子コンピューティングシステム実証を目標に、課題当たり年間約12億ウォン(約1億1600万円)の研究費を支援するプログラムで、次の3つの課題が2019年に選ばれ、それぞれの研究を進めている。
経済・社会的波及効果が高い分野の問題解決に特化した量子シミュレータを開発し、その効果を実証することを目的に課題当たり年間約10億ウォンの研究費を支援するプログラムで、次の2つの課題が2019年に選ばれ、その研究を進めている。
この事業は、「量子コンピューティングシステム技術開発」と「アルゴリズムソフトウェア」に大きく分けられ、それぞれ3年事業で2019年から2021年まで毎年、多数の課題を選定した。
課題当たり年間約3億ウォンの研究費を支援するプログラムで、大規模量子コンピューティングハードウェアシステムで情報を効率的に処理するための補助ハードウェアおよびアーキテクチャ、システムソフトウェアなどの開発を目標とする。
2019年、2020年、2021年にそれぞれ4つ、5つ、3つの課題が選定され、合計12の研究チームが関連する研究を進めている。各課題を実施している代表研究機関は、高麗大学校(2課題)、釜山大学校(1課題)、ソウル大学校(2課題)、梨花女子大学校(1課題)、韓国科学技術院(3課題)、韓国電子通信研究院(2課題)、韓国標準科学研究院(1課題)などである。
課題当たり年間約2億ウォンの研究費を支援するプログラムで、量子アドバンテージ(Quantum Advantage)を実現できる様々な量子アルゴリズム研究および応用ソフトウェアを開発することを目的とする。
2019年、2020年、2021年にそれぞれ4つ、8つ、2つの課題が選定され、合計14の研究チームが関連する研究を進めている。各課題を実施している代表研究機関は、慶熙大学校(2課題)、高等科学院(1課題)、高麗大学校(1課題)、西江大学校(1課題)、ソウル大学校(3課題)、ソウル市立大学校(1課題)、成均館大学校(1課題)、韓国科学技術院(1課題)、韓国科学技術情報研究院(1課題)、韓国電子通信研究院(2課題)などである。
韓国における量子情報科学の研究開発活性化のために、人的および物的基盤の構築と底辺拡大のために、若手研究人材養成および専門教育プログラム運営、量子コンピューティングクラウド接続を支援する「量子情報研究支援センター」を設立し、新規参入専門家を対象に海外有数の研究所や大学との人材交流センターでの共同研究を実施する「リーダー人材 研究能力強化」プログラムを運営している。
2020年成均館大学校に設立された量子情報研究支援センターは、次の5つのプログラムを運営している。 参考サイト(外部サイト):量子情報研究支援センター http://www.qcenter.kr/ 参照
新規で量子情報科学分野に参入する教授級の研究者を対象に、海外有数の研究所および大学との人材交流センターでの共同研究を促進し、未来の研究テーマ発掘およびグローバル研究ネットワークを構築するように支援するプログラムである。
2020年と2021年にそれぞれ3つと2つの課題が選定され、合計5つの課題が進められている。各課題を実施している代表研究機関は、光州科学技術院(1課題)、西江大学校(1課題)、ソウル市立大学校(1課題)、成均館大学校(1課題)、韓国科学技術院(1課題)などである。
これまで述べたように、量子コンピューティングに対する最近の韓国政府の科学技術政策は、多数の大学と研究機関が量子コンピューティングコア技術研究を集中的に行うことができるように、研究費の支援とともに、人材育成および研究ネットワーク構築、裾野拡大などの研究基盤を作る方向で進めている。韓国の研究者らには、このような政府の政策と研究開発支援が継続的になされることにより、量子コンピューティング分野および量子情報科学分野を世界的にリードする、グローバル先導国家に韓国が入るきっかけになることが期待されている。