2021年12月22日
金性洙 (Kim SungSoo):
韓国・忠南大学校エネルギー科学技術大学院教授
<略歴>
高麗大学校・同大学院修了、東京工業大学大学院博士課程修了(化学工学博士)。米ニューヨーク州立大学大学院修了(技術経営修士)。1995年よりサムソンSDIにおいてバッテリー関連の研究開発に従事し、2006年に同主任研究者。2010年に忠南大学校准教授、2015年より教授(現職)。専門は、リチウムイオン電池における電極材料等。
「韓国バッテリー業界(LGエネルギーソリューション、SKオン)の『高ニッケルNCM』、中国CATLの『LFP』、日本パナソニックの『全固体』という構図で、バッテリーをめぐり韓国・中国・日本による三国志物語が展開されている。次世代電気自動車(EV)バッテリーの主導権をめぐり、韓中日の主要バッテリー企業の重点戦略が多様化している」
先日、韓国の某新聞が報道した内容の一部だ。最近の二次電池、特にリチウムイオン二次電池に関したメーカーと政府の動向をうまく表現した記事である。
先端電子デバイスの主要部品を人体に例えれば、半導体は脳、ディスプレイは目になり、バッテリー(二次電池)は動力源という役割をしている点で心臓だと言うことができる。近年、電子機器だけでなく、EVをはじめとする移動体における電源としても、二次電池の需要が著しく増加している。また、電子機器・EV以外にも、二次電池はデジタルトランスフォーメーション(DX)やエコ化など、未来産業を動かすコア動力といえる。
未来産業の変化は、電動化(Electrification)/無線化(Cordless)がコアであり、すべての事物が二次電池で動く時代と考えることもできる。これは無線家電、ドローン、エネルギー貯蔵装置、電気船舶などを思い浮かべれば、それほど遠い話ではなさそうである。いくつかの市場分析によると、2025年には二次電池が、メモリ半導体(2021年の世界市場規模は1500億ドル以上で、年平均成長率は20~30%程度)より大きい市場になると見込まれている。まさに二次電池が半導体・ディスプレイに続いて主要産業分野となるということだ。
産業動向とは若干違う話だが、2019年ノーベル化学賞は、リチウムイオン二次電池の主要な貢献者であるグッドイナフ(Goodenough)教授、ウィッティンガム(Whittingham)教授、そして吉野彰博士の3人が共同受賞した。これもやはり、リチウム二次電池の人類に対する貢献期待値が高いことを示すものである。ノーベル賞受賞が示すように、学術的または産業的に意味が大きくなっている分野であることが明らかであると思われる。
韓国の二次電池関連研究開発の歴史はそれほど長くはない。電池の技術的研究を主要テーマとする電気化学会と電池学会は1998年と2001年にそれぞれ創立された。その前には物理、化学、材料、化学工学、電気など関連分野の卒業生が電池業界に進出し、リチウム二次電池の場合、1998年頃には韓国の主要大企業が生産を始めていたため、学界にもそれに対する要請があっただろう。
米国のECS(Electrochemical Society)や日本の電気化学会(ECSJ)は、それぞれ1902年、1933年に創立された。学術的・技術的な支援を行っており、特に日本ではパナソニック、東芝(ATB)、三洋(後にパナソニックに合併)など、主要大企業がNi-Cd、Ni-MHのような二次電池企業群を形成し、1991年にはソニーがリチウム二次電池を商品化して、さらに他の企業もリチウム二次電池市場に参入した。それ以前のことでよく知られていない事実の中には、1950年代、宇宙用として米航空宇宙局(NASA)で開発されたリチウム金属を使用した二次電池が1986年に商品化された。モトローラの携帯電話に適用されたが、深刻な発火事故が発生し、北米地域での研究開発が中断されたことがある。
反応性の強いアルカリ金属であるリチウムの代わりに、炭素陰極を適用した技術をソニーが商品化したのがリチウム二次電池であり、有機電解液を使用する二次電池としてエネルギー密度の高い利点を持っている。ただ、依然として発火や爆発のような安全性には脆弱性が残っており、日本と韓国の主要電池メーカーの大半は、大小の火災事件を経験している。
このような事件・事故を経験しながら、韓国・中国・日本はリチウム二次電池の世界市場を3等分し、激しく競争している。冒頭で述べたように、リチウム二次電池分野で韓中日の3カ国は、技術競争の中で若干異なる戦略をとっているように思われる。似て非なる文化を持つこの3カ国は、二次電池分野でもやはり研究環境・天然資源・企業文化・市場環境など、それぞれの長所を最大限に活用した戦略を駆使しているものと思われる。
二次電池分野の最近の話題は、断然、EVへの適用技術である。EVの代表的な成功事例は米国のテスラ社だ。テスラ社CEOのイーロン・マスク氏は、アマゾンの共同創設者であるジェフ・ベゾス氏を越えて世界最高の富豪となり、スティーブ・ジョブズ以来、最も革新的なリーダーとして挙げられる。テスラ社は、円筒型リチウムイオン二次電池数千個を採用したモデルを、EVの中では世界で最も多く販売し(現在まで)、テスラ社の企業価値はGMやトヨタのような既存の自動車メーカーを越えた。今年60万台程度のEVを生産しているテスラ社が、それより10倍を超える内燃機関自動車を生産するメーカーの企業価値を上回ったことになる。
企業価値を株価で示す文化の米国は、イーロン・マスク氏を世界最高の富豪とし、テスラ社をイノベーションのアイコンにしている。テスラ社以外にも、フォルクスワーゲン・GM・現代自動車・ルノー-日産などが急速に市場シェアを広げている。これまでプリウスというハイブリッド電気自動車を20年以上販売してきたトヨタは、自社で蓄積したデータと技術をもとに全固体電池を適用したEVの発売を予告している。韓国・日本を含むすべての電池関連企業が、激しい技術競争を通じて安全で効率的な電池技術を開発し、さらに人類の大きな憂慮事項である気候変動への対応に寄与できることを期待する。