2021年12月24日
林 茂根 (YIM MOOKEUN):
(韓国研究財団 日本事務所 所長)
<略歴>
1976年韓国ソウル生まれ、韓国 延世大学校卒業、同大学院修了。
2006年韓国学術振興財団(KRF)入り。2009年韓国研究財団(NRF)に改組。
2020年11月から韓国研究財団 日本事務所長に就任。
韓国科学技術情報通信部の2022年研究開発(R&D)予算は今年より6%増額された18兆5737億ウォンで、国会本会議の議決(2021年12月3日)により最終確定した。科学技術情報通信部は以下の分野を2022年の5大重点投資分野に設定し、これらに関連する予算を集中的に投入する計画である。
科学技術情報通信部は、デジタルニューディール2.0事業に今年よりも33.3%増加した2兆7,300億ウォンを投入する予定である。デジタルニューディール1.0(韓国政府は、2020年に1.6兆ウォン規模でデジタルニューディールの研究開発に着手した)を通じて構築されたデータダムなどのインフラを活用し、民間領域で新しい製品と多様なサービスが創出されるよう支援する計画である。人工知能(AI)の成長基盤を強化するために、AI学習用データの構築とAIデータバウチャー(競争力のある中小ベンチャー企業(供給企業)が自社のAI技術を紹介する。AI技術の適用が必要な企業(需要企業)が高価なAI技術を容易に活用し、産業全分野のデジタル化を促進するために、2020年に225課題、2021年に207課題を選定して推進中)の支援なども拡大する予定である。また、メタバースやデジタルツインなどの超連結・超実感デジタルコンテンツの新産業を育成し、サイバーセキュリティの脅威に対する対応システムを強化する予定である。
韓国型ロケットの高度化、韓国型衛星航法システム(KPS)の開発、ワクチンハブの構築支援など、基礎・固有技術と先端戦略技術のR&Dには、今年よりも9.1%増加した7兆5,600億ウォンが投入される予定である。また、研究者が研究に邁進できるよう研究者主導の基礎研究予算を拡大し、日韓貿易問題として浮上している素材・部品・装備技術の自立と、量子コンピューティング・核融合など先端技術の確保にも今年同様、持続的に投資する計画である。今年、初めて韓国の独自技術で打ち上げられた韓国型ロケットであるヌリ号については、宇宙ロケットの競争力を確保するために、2027年まで計4回打ち上げを実施して韓国型ロケット・ヌリ号の信頼度を高め、韓国型ロケット技術を民間企業に移転し、ロケットの設計から製作、開発、サービスの全周期を運用できる総合企業を育成する計画である。
バイオヘルス分野の新市場の先取りを目標とする新薬開発・再生医療事業、AIの演算性能と電力効率を高める新概念PIM (Processing In Memory) 半導体コア技術の開発、未来の車の自動運転技術の開発など3大新産業の育成には今年より34.5%増加した5,800億ウォンが投入される予定である。参考までに、韓国政府は今年、新薬開発の全周期段階の支援を通じたグローバル新薬開発の成果創出に向け、新薬開発段階のうち有効物質の導出から臨床2床までを支援し、改良新薬や複製薬ではなく、革新的な新薬の開発を支援する国家新薬開発事業を新規推進したことがある。同事業は、2021年から2030年までの10年間、約2兆2000億ウォンが投入される予定である。また、AIの登場に伴い処理するデータが爆発的に増加し、データが保存されたメモリと演算のためのプロセッサ間でボトルネックが発生し、大規模なデータの移動により電力消耗量が増加し、性能や電力の面で限界を迎えている。これを克服する方法として、プロセッサとメモリを統合するPIM (Processing In Memory) 技術が台頭しているが、韓国政府は、PIM半導体技術は世界的に初期の市場であると判断し、すでに半導体メモリ分野で世界的な競争力を維持している韓国の技術により集中的に投資する計画である。
宇宙・量子など未来有望技術分野の専門人材の養成を強化し、企業が主導するソフトウェア教育課程の新設を支援するために、今年より12.3%増加した7千4百億ウォンが投資される予定である。科学技術情報通信部は、2021年から統合して推進している科学技術イノベーション人材養成事業(システム半導体、量子、宇宙、医師科学者研究)に、感染病の研究、気候技術、無人移動体関連の人材養成事業を2022年から新規で追加して推進する予定である。
気候危機の克服と2050年のカーボン・ニュートラルの実現に貢献するための固有技術の開発に着手する予定であり、災害・事故の予防と社会問題への対応を効果的に行うことができるよう、関連基盤技術の開発支援も拡大する予定である。具体的には、カーボン・ニュートラル技術の開発に新規で150億ウォン、研究室の安全環境の構築に135億ウォン、治安現場に合わせた研究開発に54億ウォンが投資される予定である。また、急速なデジタル転換により疎外されやすい社会的弱者を支援し、地域の研究開発のイノベーション人材力を強化するために、無線インターネットインフラの拡大構築に672億ウォン、地域の研究開発のイノベーション支援に210億ウォンが投入される予定である。
その他、安定的な郵政サービスの提供と郵政事業本部の持続成長の基盤構築のために、5兆4600億ウォンが投入される予定である(参考までに、韓国の場合には郵政事業に関する管理も科学技術情報通信部が行っている)。
一方、韓国の38の部・処・庁が行う2022年の韓国政府総研究開発(R&D)の予算は、今年の27兆4,005億ウォン比で、2兆3,750億ウォン(8.7%)増えた29兆7,755億ウォンに確定した(今年8月、本コラムを通じて韓国政府の2022年のR&D全要求額は28.7兆ウォンと紹介したが、12月3日の国会本会議の議決で最終的に29.8兆ウォンと多少増加した)。これは、最近5年間で計10兆ウォン以上拡大したことになる=下記表参照。
区分 | 2017 | '18 | '19 | '20 | '21 | '22 |
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R&D予算(兆ウォン) | 19.5 | 19.7 | 20.5 | 24.2 | 27.4 | 29.8 |
R&D予算増加率(%) | 1.9 | 1.1 | 4.4 | 18.0 | 13.1 | 8.7 |
韓国政府は、2022年の全R&Dのうち、韓国版ニューディール2.0の高度化、2050年のカーボン・ニュートラルの実現、イノベーション成長3大核心産業(バイオヘルス・未来車・システム半導体)の育成などに集中的に投資する計画である。グローバル技術覇権競争に対応するために、AI、量子技術、宇宙などの先端戦略技術に先制的に投資し、地域のイノベーション人材力の強化および青年・女性科学技術者への支援など、インクルーシブなイノベーションにも力を注ぐ計画である。
2022年事業別R&D予算の詳細は次の通り。
区分 | 連番 | 事業名 | 2021 | '22 |
---|---|---|---|---|
デジタル ニュー ディール2.0 | 1 | 人工知能学習用データの構築 | 3,705 | 5,797 |
2 | 人工知能・データバウチャーなど | 1,790 | 2,221 | |
3 | クラウドコンピューティング産業の育成 | 589 | 764 | |
4 | ブロックチェーン活用基盤の造成 | 293 | 307 | |
5 | 5G融合サービスの発掘と公共先導の適用 | 400 | 400 | |
6 | 5G産業融合の基盤造成 | (新規) | 81 | |
7 | 人工知能+X8大プロジェクト | 523 | 586.5 | |
8 | 次世代の人工知能の固有コア技術の開発 | 949 | 967 | |
9 | ドクターアンサー2.0 | 50 | 99 | |
10 | VR・ARコンテンツ産業の育成 | 704 | 839 | |
11 | 実感コンテンツコア技術の開発 | 165 | 259 | |
12 | デジタルツイン連合コア技術の開発 | (新規) | 44 | |
13 | ハッキングウイルス対応システムの高度化 | 528 | 633.9 | |
14 | 情報通信基盤保護の強化 | 228 | 285 | |
15 | データプライバシーグローバル先導技術の研究開発 | (新規) | 43 | |
基礎・ 固有及び 先端戦略 技術の確保 | 16 | 個人の基礎研究(科学技術情報通信部)及び集団研究の支援 | 17,907 | 20,014 |
17 | 基礎科学研究院の研究運営費の支援 | 2,493 | 2,713 | |
18 | 韓国型ロケットの高度化 | (新規) | 1,727.6 | |
19 | 韓国型衛星航法システム(KPS)の開発 | (新規) | 321 | |
20 | ワクチンハブの基盤構築の支援 | (新規) | 193 | |
21 | ウイルス基礎研究所・研究資源センター | 109 | 268 | |
22 | ナノ・素材技術の開発 | 1,954 | 2,363 | |
23 | 未来先導研究装備のコア技術の開発 | (新規) | 86.58 | |
24 | 量子コンピューティング研究インフラの構築 | (新規) | 100 | |
25 | 量子インターネットの固有コア技術の開発 | (新規) | 72 | |
26 | 稼動原発の安全性向上コア技術の開発 | (新規) | 345 | |
27 | 原発解体の安全性の強化、融合・複合コア技術の開発 | (新規) | 53 | |
28 | STEAM研究事業 | 205 | 369 | |
3大 新産業の 育成 | 29 | 国家新薬開発 | 150 | 461 |
30 | 汎部処再生医療技術の開発 | 64 | 190.5 | |
31 | 汎部処全周期医療機器の研究開発 | 596 | 642 | |
32 | バイオ医療技術開発基準での統合・作成 (次世代のバイオ技術の開発、グリーン・ホワイトバイオ技術の開発) | 2,536 | 2,425 | |
33 | 認知症克服研究開発 | 79 | 112 | |
34 | 脳疾患克服研究 | 78 | 95 | |
35 | 電波医療応用コア技術の開発 | 20 | 39 | |
36 | 国家生命研究資源の先進化 | 879 | 739 | |
37 | PIM人工知能半導体技術の開発(設計/素子) | (新規) | 309 | |
38 | 自動運転用人工知能半導体コア技術の開発 | (新規) | 78 | |
39 | 人工知能半導体の実証支援 | 28 | 41 | |
40 | 次世代の化合物半導体コア技術の開発 | (新規) | 75 | |
41 | 自動運転技術開発革新事業 | 249 | 284 | |
42 | 次世代の自動運転車両通信技術の開発 | (新規) | 53 | |
43 | 無人移動体の固有技術の開発 | 182 | 252 | |
44 | 常時災害監視用成層圏ドローン技術の開発 | (新規) | 40 | |
科学技術 情報通信の 人材養成 | 45 | 科学技術イノベーション人材の養成(半導体、宇宙、量子など) | 174 | 403.6 |
46 | 女性科学技術者の育成・支援 | 160 | 194 | |
47 | 海外の優秀な科学者の誘致 | 314 | 361 | |
48 | 優秀研究者の交流支援(BrainLink) | (新規) | 73 | |
49 | オンライン数学・科学仮想実験環境の構築 | (新規) | 14 | |
50 | インクルーシブ成長専門研究人材の養成 | (新規) | 19 | |
51 | SW中心大学 | 720 | 765 | |
52 | 企業メンバーシップSWキャンプ | (新規) | 124 | |
53 | 人工知能コア人材の養成 | 180 | 200 | |
54 | 人工知能融合革新人材の養成 | (新規) | 38 | |
55 | ICTイノベーションスクエアの造成 | 342 | 387 | |
56 | 国防分野のSW・AI能力の強化 | (新規) | 40 | |
インクルーシブな社会の実現 | 57 | ステップアップ型カーボン・ニュートラル技術の開発 | (新規) | 150 |
58 | DNA活用カーボン・ニュートラルエネルギー効率化コア技術の開発 | (新規) | 60 | |
59 | CCU 3050 | (新規) | 90 | |
60 | 炭素資源化プラットフォーム化合物製造技術の開発 | (新規) | 66 | |
61 | 石油代替エコ化学技術の開発 | (新規) | 75 | |
62 | バイオマス基盤のカーボン・ニュートラル型バイオプラスチック製品の開発 | (新規) | 20 | |
63 | リアルタイム海底災害監視技術の開発 | (新規) | 20.5 | |
64 | 国民生活安全緊急対応研究 | 50 | 50 | |
65 | 北東アジア地域と連携したPM2.5対応技術の開発 | 75 | 112.5 | |
66 | 研究室の安全環境の構築 | 111 | 135 | |
67 | 治安現場カスタマイズ研究開発(消防を含む) | 25 | 54 | |
68 | デジタル格差解消の基盤造成 | 808 | 788 | |
69 | 農漁村通信網の高度化 | 37 | 27 | |
70 | 無線インターネットインフラの拡大構築 | 630 | 672 | |
71 | 地域の研究開発イノベーション支援 | 127 | 190 | |
72 | 産学研の協力活性化支援 | 185 | 264 | |
73 | 国家間の協力基盤造成 | 225 | 280 | |
74 | 開発途上国の情報利用環境の改善(ODA) | 34 | 37.51 |