2022年02月10日
キム・チャンワン (Chang wan Kim) :
韓国・中央大学校建築工学科 教授
<略歴>
韓国・中央大学校卒業、米国カルフォルニア大学バークレー校修士課程、テキサス大学オースティン校博士課程修了(建築工学博士)。専門はスマートシティ関連のデジタル技術、データ分析等。韓国公共機関評価委員会委員長ほか、各種政府委員会の委員を務める。
国際競争の時代において、国家の競争力の中核として機能するのは大都市である。大都市には産業と財政の基盤が集中しており、大都市圏への人々の流入は徐々に増加している。国連人間居住計画(ハビタット)が発表した世界都市報告書2020によると、現在、都市人口は世界人口の56.2%を占めており、2030年までには60.4%増加し、2050年までには68%増加する。
韓国の場合、バランスの取れた地域開発および脱都市化政策にもかかわらず、都市化の傾向は続いている。韓国国土情報公社が発行した報告書である都市計画統計によると、韓国の都市部の人口は1990年の81.9%から2020年には91.8%(4,760万人)に増加した(韓国統計2020)。都市化による人口増加は、住宅問題、交通渋滞、環境問題、富裕層と貧困層の格差拡大、老朽化した施設による災害、犯罪など、さまざまな問題を引き起こす可能性がある。
このような都市一極集中による問題を解決する代替アプローチとして、スマートシティが注目されている。スマートシティという言葉は国によって定義が異なるが、一般的には、革新的な技術を開発・利用することにより市民の生活の質を向上させ、市民が直面する問題を解決することを目的とするものとなっている。
韓国のスマートシティ法において、スマートシティは、「建設技術や情報通信技術などの融合・複合化により構築された都市インフラを基盤として、さまざまな都市サービスが提供され、競争力と居住性が高められた持続可能な都市」と定義されている。世界のさまざまな国で、都市問題を解決し、第4次産業革命の時代に新しい産業を育成することを目的として、スマートシティが導入されてきた。統計提供企業 Statistaの市場調査報告書によると、世界のスマートシティに関する市場規模は2019年の3,929億ドルから、2030年には1.38兆ドルに増加すると予想されている(Statista2021)。特にアジアでは、急速な人口増加に伴い、スマートシティの導入は増加し続けると考えられている。
韓国政府は2018年1月、スマートシティ実施計画に合わせ、将来の「世界のスマートシティ」の主要モデルとして2つのパイロット都市を選定した。世宗5-1リビングエリアと釜山エコデルタシティである。2都市には、何もないところに第4次産業革命に関連するさまざまな先端技術が整備された。これら2つの国内パイロットスマートシティは、人工知能(AI)、5G、ブロックチェーンなどのさまざまな革新的なテクノロジーに基づき、自動運転車、ドローン、スマートエネルギーに関連する新しい産業を育成することを目的としている。韓国政府は民間セクターを参加させ、これらの都市から交通、エネルギー、環境に関するさまざまなデータを取得し、リンクさせ、活用することによって、革新的な産業エコシステムを構築することを目指している。
世宗5-1リビングエリアの目的は、AI、データ使用、ブロックチェーン技術に基づき、市民の日常生活を変えるスマートシティを構築することである。この目的達成の中心となるのは、交通(移動性)、ヘルスケア、教育、エネルギーと環境、ガバナンス、文化とショッピング、そして仕事という7つの主要サービスの実施である。新たに計画された都市空間は、最適な交通手段(モビリティ)を提供するように設計されている。道路には自動運転車および相乗り自動車のために指定されたレーンがあり、他のレーンは自家用車だけが通行できる。救急におけるゴールデンアワー(受傷から決定的な治療までの1時間)確保のために、救急センターまでドローンを使用して最適なルートで車両を誘導することなど、都市計画担当者は市民の健康と安全のためのヘルスケアサービスを提供している。
釜山エコデルタシティは、多くの都市が直面している急速な高齢化と失業の問題に対応するため、ロボット工学と水の管理に関連する新しい産業の育成に焦点を当てている。都市計画担当者は、市の水循環の全プロセス(降雨、流れ、浄水、下水、再利用)にさまざまな技術とサービスを導入することにより、気候変動に対応可能で韓国の水循環に特化した都市モデルを開発し、構築している。市内には第4次産業革命(拡張現実など)関連の新しい産業を育成するために、5つの主要な「イノベーション・クラスター」もつくられることとなっている。
韓国政府は、スマートシティに必要な技術を実証するパイロット都市の実現を促進するとともに、スマートシティ・イノベーション成長エンジンプログラムと呼ばれる国家戦略的研究開発プログラムへの投資も実施した。2022年までの5年間で総額1,159億ウォンが投資される。
このプログラムは3段階にわたっている。第1段階では2018年から2019年にかけて技術開発が行われた。第2段階(2020年から2021年)ではこれらの技術が実証された。第3段階は2022年に予定されており、開発された技術の商業化と安定化を目指している。第3段階は3つのサブプロジェクトから構成されている。1つは標準化されたスマートシティモデルおよび技術の基盤を開発することを目的とし、他の2つはパイロット都市で開発された技術の実証を目的としている。2018年には、開発された技術を実証する場所として大邱広域市と始興市が選ばれた。これら2つの市は、地域ごとにデータセンターを設置し、データハブモデルを構築することで、市民にさまざまなスマートシティ関連サービスを提供する役割を果たす。都市計画担当者は、データハブを通じて、さまざまな種類のデータを収集・統合し、必要な情報の形でそれらを再現する。
韓国インフラ技術進歩局のスマートシティ・イノベーションセンターは、スマートシティの実現に必要な技術とサービスの開発を完了した。地方自治体および市民向けシステムの連携と統合について、さまざまな実証的研究が行われてきた。たとえば、プロトタイプであるデータハブは2020年に開発され、2021年にアップグレードし、固定された。データハブは都市の標準データプラットフォームであり、スマートシティのコア・テクノロジーである。さまざまなタイプのスマートシティ・アプリケーションからデータを収集し、必要なネットワークを管理することを目的として、大規模なインテリジェントIoT(モノのインターネット)機器やネットワークシステムに関連する技術の開発が完了した。スマートシティ・イノベーションセンターは、大気環境のモニタリングやセキュリティなどといった調光操作サービスの実証に成功した。仮想化プラットフォーム技術であるデジタルツインをエネルギーや設備を管理するサービスとリンクさせるために、追加の試験が行われた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が国中に急速に広まったとき、スマートシティ・イノベーションセンターはCOVID-19の疫学調査支援システムを開発し、2020年のデータハブに基づいて確認された症例の経路を分析した。同年3月、開発されたシステムは韓国疾病管理庁に移管された。その結果、1症例につき疫学調査が必要とする時間が2日からわずか10分に短縮された(国土交通部、2020年)。
スマートシティの実現を成功させるには、市民とその環境との相互作用を改善する方法で都市を開発していき、市民の生活の質を向上させることを目的としなければならない。そのためには、市が直面している問題を深く理解する必要がある。特に、インクルーシブな成長を実現するという観点から、社会問題の解決(都市生活のさまざまな側面における不平等の解決など)を詳しく検討する必要がある。このような問題を解決するために必要な技術を開発することが重要であるため、これらの新しい技術を採用して既存の技術を補完することが都市の問題を解決するのに有益か否かについても評価しなければならない。